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Ⅳ時限目(9)

「そなた達の前に、報告じゃ」

 膨らんだ腹をさすりながら、クロエ王は膝元の小瓶をシートの中央へと押した。

「解毒剤がついに実用化できたぞよ。散布すれば、たちまちに石から脱却じゃ。市内に配備させた分身に持たせておる。ジゲンⅡにも送っておる」

 ロロが指を組み、感謝の意を表した。

「交代じゃぞ、若造」

「ありがたく。アドミニスさんは、そこで耳を傾けてくれたら構わない。ジゲンⅢのスクエイアの証についてだが」

 ズボンの前ポケットにしまっていた緑の鍵を、高く上げた。

「ゲートの暴走で大量に増えている毒の石と、成分がほとんど同じだった」

 ロロが、黄色いシャボン玉を鍵のそばに寄せる。中に毒の石、ジゲンⅡでいう「大地の害悪」が保管されていた。

「ロロを通して、大聖堂にこれらを照合してもらった。毒を含んでいる状態であれば、約90%一致していたんだ」

 私は、ジゲンⅡによる調査レポートのコピーを配った。

「画像に注目してほしい。上はジゲンⅢ、本朝は泰盤府四輪市の竜崎駅付近、下はジゲンⅡ、森ゾーンだ。赤丸は、毒にかかった住人達を指している」

「めぼしいものでもあるのかの?」

 羊毛のような髭を掻いて、クロエ王が問うた。

「『当然』を素通りしない。住人達は、その姿形のまま石にされている」

 クロエ王の真正面に正座して、請い願う。

「私に分身三人をください。毒の石とでゲートの鍵を作らせていただけませんか」

「気乗りせぬな。分身とはいえ、毒を受けさせるのじゃろ? それにしても、もう一つ鍵を持って、何が目的じゃ?」

 腕組みするクロエ王に、再度頭を下げた。

「私の命を削らずに、ゲートの暴走を止められるか試します」

「ふはは!! そなたの利を優先したか」

 王は大声で笑った直後、冠を曲げた。

「小汚いぞよ、若造が!」

 怯むな。私は、利己主義ではない。

「『鍵を持つ人』が生まれ変わるまでに要する期間は、不規則だ。二十四時間以内だった例や、数百年かかった例がある。私の記憶と『ジゲン見聞録』、アドミニスさんの聞き取りが根拠だ」

「それがどうしたのじゃ」

「過去、次の体に継がれるまで、スクエイアが集まるべき事態は来なかった。今後もそうとは限らない。スクエイアが一人でも欠けたら、ゲートの暴走を止められません」

 アドミニスさんが、ビニールシートに上がった。

「成分が緑柱石に近い鍵で閉められたら、命をゲート一基分浮かせたことになる。結果、ゲートの暴走による各ジゲンへの危機を救えるチャンスが減らずに済む。国民の安全を真っ先に考えるあなたにとっても、悪くない話でしょう」

 クロエ王は、しばらく黙っていた。

「暴走の原因を、つかんでみせる。スクエイアの役目は、私達で最後にしませんか」

 返事をお聞かせ願いたい。

「そなたは、人にものを頼む態度がなっていないのう」

 痛い所を突かれた。王には敵わない。

「冗長にして、理屈っぽく、妙な自信に溢れておる」

 アーチ形に閉じた王の唇が、急に弛んだ。

「じゃが……わし達を謀ろうとする念は、一切無い」

 立派なパンチパーマを引っこ抜き、それに息を吹きかけた。髪の毛は黒い棒となり、私の手前まで歩いてきた。

「若造に乗ってみようかの。新米スクエイアが二人もおるのじゃ、チャレンジも悪くない」

「ありがとうございます」

 十年後までに、私はクロエ王のような人柄を目指したい。

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