Ⅳ時限目(7)
「ロロ、視力を高めるマホーはできるか?」
お任せくださいと言わんばかりに、ロロは胸を張った。
「ククダオウチ・ヒリョ・ウロトモヨ」
視界が明らかに先程までと違う。壁の微細な汚れ・しわ・へこみ、調度品の埃を離れていながらも数えられる。私は裸眼で暮らしているが、強い度数の眼鏡をかけると、こんな具合なのだろうか。
「緑のキラキラが、ドアの方へ続いていませんか?」
「そうだね。粉を追ってみよう」
リビングへ出る。階段にも細い緑の糸が、緩やかに伸びていた。
「段差が急だから、手すりを持って」
先にロロを二階へ上らせた。
「奥のお部屋にキラキラがございますよ」
自室にスクエイアの証が? 荷物を置きに行ったけれど、それらしき物は……。
「形が変わった、と書いてあったな」
終着点は、押し入れだった。どうしても言う事を聞かなかった時、母はここに私を押し込んだそうだ。
「明るく致しましょう」
「マホーはいらないよ。そこのビニール袋に、ペンライトがあるんだ。くれないか」
仲間に頼りきりではいけない気がしたのだ。学生時代の教科書をまとめていた下段に、おにぎり形の鉱物があった。怯えながら反省している幼い私がいるように思えた。
「独りにさせて、ごめん」
かぶっていた緑の粉を払ってやり、連れ出した。
「ただいま」
手の上で、鉱物が元々の形に変化する。
「自分を責めなくていいんだ。君は情に厚い」
どこも尖っていないことが、それを裏付けていた。
「ジゲンゲートの調子が悪い。案内してくれるかな。親父にも、会いに行くよ」
緑柱石がほのかに温かくなった。
「目黒先生と跡見さんに連絡だ」
非常識であるとは承知している。特に跡見さんは、一般家庭の子どもとして住んでいる。保護者には、深夜に外歩きさせて、申し訳ない。
「お待ちくださいませ、坊ちゃん」
緑柱石を観察していたロロが、訊ねた。
「坊ちゃんのスクエイアの証ですが『大地の害悪』と、似ておりませんか?」




