Ⅳ時限目(育児日記2)
「親父は、出自と私の将来に苦悩していたんだ」
「皆さんの前では、明るく振るまうよう努めていらっしゃったのでしょうね」
妻子がいても、ふと孤独感に襲われたのだろうか。
「打ち明けられましたら、楽になれたのでしょうか?」
「どうかな。親しい人だからこそ、共有させたくない気持ちがあるかもしれないね」
一歳半からの一年間は、和やかな記述で占められていた。スクエイアの記憶を沈めたためか、私の言語能力が退化して、単語すら不明瞭に発音していた。しかし親父は、息子が口を開けて無邪気に走り回り、掻っ込むようにご飯を食べてくれれば幸せだったそうだ。
マコ、三歳と一八四日
ぬかった。マコにスクエイアの証を見せてしまった。無視できないだろ、短い腕をいっぱいに伸ばして、おれの膝に乗せろとうったえてきているんだゾ。
運命は、怖いな。デスクに飾っていたあれを欲しがっていたんだから。幼児をなめてはいけない。ものすごい勘がはたらいている。
スクエイアの証は、おれが保管して以来、鍵ではなくなった。マコと離されてすねたのか、すっかり自分の殻に閉じこもっていた。マブタチとやんちゃして採ってきた、とごまかすっきゃないよな。いじらせなかっただけ、セーフだ。今後は、部屋に入れない。でも、マコはドアを開けられるし、ドアロックかけたら泣いて、ドアを叩いてくるし、対策が打てないんだよ。
右の引き出しにしまっておくか。あまり使わない段の奥に隠そう。おれが墓に埋められた後、あってほしくないが、ジゲンに危機が迫ったら、こいつをヒントに見つけてくれるだろう。
マコ、三歳と二〇一日
息子の成長を素直に喜べなくて、つらい。引き出しを物色しはじめた。よその家でされては、お互いに困るので、きつく叱った。腕をかまれた。仕返ししないと気がすまないのは、母ちゃんゆずりだな。隠し場所を変えるか。




