Ⅳ時限目(4)
滞在の支度を整えていると、来客があった。
「夜分遅くにすみません」
ロロがキャセロールを持って、お辞儀した。良いタイミングだ。
「入って。スリッパ、適当に履いてね」
「恐れ入ります」
キャセロールをもらう。田端先生の奥さんからのおつかいだった。旬の野菜をトマトソースで煮込んである。
「ラタトゥイユでございます。常備菜ですので、一週間のお供に、と言づかっております」
卵かけご飯とインスタント麺で耐え凌ぐつもりだった。大変、助かる。
母が新しく作ってくれていた麦茶を注ぎ、ロロに上座を勧めた。
「急ぎご報告がございまして、参りました。本日の夕方『大地の害悪』が、ジゲンⅡの北の端、森ゾーンにて二十三個見つかったのです」
私はコップを持ち上げたまま静止した。恐れていたことが、現実になってしまった。
「前日に森ゾーンをハイキングに出かけた二十二名が、遭難しておりました。もしかしますと……」
「全員が『大地の害悪』に触れたのかもしれない、だね」
ロロが悄然として頷く。
「他のジゲンには『大地の害悪』が無かったか、大聖堂は問い合わせております」
ロロの肩が、ひどく震えていた。
「ハイキングに行かれた方々は、最近、誕生の祝福を受けたばかりなのでございます」
いたいけな後輩だったのだろうな。
「危ない物だと教えられていると思いますが、まだ怖いことをご存知ではありません。メロンシロップのようにお綺麗な色をしていますので、気になってしまわれたのでは…………」
私はテーブルに拳を打ちつけた。緑柱石の鍵、応答してくれないか。持ち主を無力なおじさんのままでいさせるのか。
「ロロ、家の中にスクエイアの証はあるか? 緑色の鍵なんだけれども」
彼女はさらに体を縮こまらせた。
「マホーを唱える側が見たことのない物は、お探しできかねるのです……」
「そうなんだね。悪かった」
「実おじさまの研究ノートでしたら、どちらにしまわれていたかマホー無しでも分かりますよ」
スクエイアに関する記述が残っていそうだ。
「おじさまのお部屋をのぞかせていただいても、よろしいですか」
「勿論だよ」




