Ⅳ時限目(3)
自宅の地区は、実家がある住宅街とは違い、二十一時を過ぎても人通りが絶えない。夜に営業を始める店が点在しているのだ。
孔雀のような男性や、燕のような女性をかわして、自転車をこぐ。
(ウグイスダニミノルに、「鍵を持つ人」の記憶を沈めてほしいと頼まれたわ)
六時間ほど前、教員と生徒で会場の後始末をしていた。跡見さんが、私を手伝いつつ親父とスクエイアの証について話してくれた。
(あなたは一歳にして、運命を知ってしまったの。ジゲンを研究していた彼は、ラジオを改造して私と通信した)
ぐうたらな親父が、か。信じられない。
(私は彼に力を貸したわ。スクエイアの証は、その時に取り上げていたわね)
「形状は覚えているか?」
跡見さんは蒼い折り紙で、細長い物を作った。
(鍵だったわ。ジゲンⅢのスクエイアらしいわね)
スクエイアの証は、私の場合だと、いつとはなしに握っていた。胎内に鍵を持ち込んでいるのか? は、無粋な質問だ。取れた乳歯に紛れて出てきたパターンもあった。
「私が興味を惹かれ手にした鍵が、そうだったのか。親父は、せっかく忘れさせた記憶が戻ることを恐れて……」
(彼が、どうかしたの?)
顛末を聞いた跡見さんが、軽く片足で地面を踏んだ。
(証が怒ったのね。スクエイアに危害を加えたと誤解したのよ)
「意識が宿っているのか?」
(緑柱石には、しばしば見られるわ。初めはあなたと引き離されたけれど、世話をしてくれるから様子を窺っていたのかもね)
達者に話せていたら、鍵の怒りを静められたはずだ。幼かった私が、恨めしい。
(緑柱石は、形の有る無しに関わらず、人や物を閉じ込める他に、今いる所と違う世界へ旅立たせるの。ウグイスダニミノルは、ジゲンを転々とさせられているわね)
「ジゲンⅢに帰っている可能性が、無きにしもあらずだな」
(彼と面識がある小さい子に探ってもらったら?)
声しか聞いていない自分を、跡見さんは嘲っていた。
「季節の小人」に鬼ごっこをさせられた春、ロロに探知のマホーを使ってもらった。
「……そうだ」
スクエイアの証の在処も、突き止められるのではないか。深夜に申し訳ないが、ロロに協力してもらおう。私は、ネオン街を思い切り駆け抜けた。




