Ⅲ時限目(11)
私は腕に、白い鉢巻へと変身したロロを締めていた。
「緊張しないでいいよ」
「もしもの時は、わたくしめより先にお逃げくださいましね」
ジゲンⅣのスクエイアは、どこに潜んでいるのか。この瞬間にも、ゲートの暴走が進んでいるというのにだ。
「Aブロックの走者は、スタートラインへ」
青・黄色・オレンジ・水色・白チームが位置に着き、号砲が鳴った。
「白の大塚先生、フルスピードでトップに躍り出ました! 二位のサッカー部は、顧問を超えられるでしょうか!?」
抜いた場合、制裁を受けるだろう。
「第二走者にバトンが渡されます。高輪・G・トウェイン先生、華麗なフォームでさらにリードしてゆきます」
黒船を投入するとは、とことん大人げない。私はアキレス腱を伸ばして、テイクオーバーゾーンにて待機した。
「おおっと! バレー部の勝山くんがトウェイン先生に追いつきました。このレース、なかなか展開が読めません」
白と黄色、ほぼ同時にバトンが渡された。現役世代と競走か。醜態をさらすわけにはいかないな。
「鶯谷先生、速い、速い! 社会の厳しさを体で教えています。ああ! 勝山くん、転倒! 青と水色の走者が巻き込まれております。ファイト!」
私は進学・就職共に一回で合格している。現代社会の辛酸を嘗めてきたとは言い難いのだが。また、民俗学を専攻していたため、公民には疎い。
アンカーに決着を委ね、控えスペースに移動した。
「坊ちゃん、お疲れ様でございました」
私は、鉢巻を締めた腕を叩き、感謝の意を伝えた。
「バッタさんのようにぴょーんと跳ねて、一位を保たれました」
「ホッパー真だけにね」
観客席が騒々しくなる。教員チームの切り札が記録を更新したのだ。
「お若くてたくましい先生でございますね。体育を教えていらっしゃるのですか?」
「家庭科だよ」
ロロが思わず大きな声をあげた。私は素早く選手の集まりから遠ざかった。
「失礼いたしました。ミシンでお洋服を縫われるようには見えかねたのです」
私も初対面でそう思っていた。ミシンをダンベルにし、フライパンを捻じ曲げ、洗濯板で服を洗っていそうだろう。彼は新卒かつ陸上経験者だった。大塚先生に抜擢されて、気の毒である。




