Ⅲ時限目(5)
和瑚に呼ばれて、部室へ急ぐ。もっとあの人の声を聞いていたかったが、文芸部として外せない用事を優先しなければならなかった。
《クローバー近藤の、ゆうがたリフレッシュ!! 》
アンティークのラジオに群がる。少女達にとって、運命の日だった。
《リスナーの皆様、お待たせ! 今日は、第四回クローバーリリック大賞の受賞者発表ですよ! クローバーリリック大賞について説明しますと、南茶亭製菓CMソングを作っておりますアタクシ、クローバーの書き下ろし曲に、皆様がこれだ! と思う歌詞をつけていただいて、その中から佳作のふたば賞、準優秀賞のみつば賞、そして最優秀賞のよつば賞を一名様ずつ選ばせていただく、というものです》
文芸部はこぞって、クローバーリリック大賞に応募した。顧問がラジオのホームページ記事を持ってきたのが始まりだった。自分の書いた歌詞が、全国で歌われる。内向的な性格の集団であるが、仮にも表現する者だ。わずかな時間でも、いろんな人に作品を知ってもらいたい。
《まずは、ふたば賞いこっか。ふたば賞の受賞者は……》
スネアドラムの生演奏に、緊張が増す。
《じゃじゃじゃん! ラジオネーム・とんだいさん! タイトルは「ほおずきランタン」、おめでとふたばー! OK! ミュージックスタート!! 》
一同の背中が、丸まった。三年生が「大丈夫、始まったばっかりだよ」「次かもしれないわ」など励ましてくれる。ラジオネームは前もって部内で公表していた。だから、誰が入賞したか分かるのだった。
《ほおずきに照らされた夜、この発想は素晴らしかったですねー。とんだいさんには、賞状と、番組特製ワイヤレスイアホンをプレゼントします。続きまして、みつば賞! 受賞者は……だだだん! ラジオネーム・ウシニモダさん! 》
舞通凛が少女に抱きつき、皆が手を叩いた。なんと少女が、準優勝に選ばれたのである。
《タイトルは「あの人に言えない」、おめでとみつばー! さあ、ミュージックいきまっしょう!! 》
少女の歌詞を乗せた、DJによる和風モダンな曲が部室に届いた。
あなたの知らない わたしの真名
でもあなたは知ってる 埋められた思い出
わたしが閉ざした ぼろぼろの玉手箱
日に当たらなくていい 涙の明日はいらない
言えない名前 捨てられないでいる
いつか声に表してくれる時を待つ
蒼い薔薇に託した 二人きりの未来
目隠しを外して「久しぶり」を交わそう
離れ離れはもうおしまい
新雪のような心で生きて
友達が、感極まって泣いている。後輩が、憧れのまなざしを向けている。先輩が、たくさん誉めてくれている。
私の文章が、皆に活気をあげたのだー!
《秘めた決意が切なくて、アタクシ、エールを送りました。絶対に幸せになってね! ウシニモダさんには、賞状と、先ほどの音楽をお入れした新発売のポータブルオーディオプレイヤーをプレゼントします》
魂が、浮いている。体は重力で床につなぎ止められているのに、私はこの惑星を飛び立とうとしている。喜びが最高潮に達すると、ロケットに乗らないで宇宙を旅できるのか。
黒板に「祝! 仁子ちゃんふたば賞」がでかでかと書かれる。それを縁取るのは、緑と青のチョークで描かれた二葉のクローバーだった。




