Ⅰ時限目(3)
鍵を持つ人の□□□□□□故郷は
桜があちらこちらに咲き誇り
多くの神が住むジゲンⅢの島国の
四つの輪が土の下にあり
輪の上に四つのジゲンゲートがある所だった。
他の人間とどこが違うのか?
鍵を持つ人は魂の形が変わらない
生きていた記憶は失われても
ゲートの鍵は共にある
鍵を持つ人はジゲンⅢから消えない
あなたが鍵を持つ人だということもありうる。
『ジゲン見聞録』第三章三十三節より抜粋
解読不能の文字は□とされている。おそらく、最初の、もしくは、◯番目の、だろう。『ジゲン見聞録』は、各ジゲンの使節団や冒険家が書いた。第三章一節から四十八節は、ジゲンⅡの者による記述だ。ジゲンⅡの言語は、私達の世界に比べて複雑である。一つの音に対応する文字と、配列のパターンが多様に存在する。
「ジゲンⅢから消えない……常に何らかの形で生きているんだ」
長期休暇を利用して、地球全体を地道に探したいが、金銭の問題が立ちはだかる。教育以外の方面に力を入れている知事のおかげで、ボーナスがスリムになった。
「記憶は引き継がれていないんだよなあ」
簡単に「私が『鍵を持つ人』です」と名乗ってくれなさそうだ。
「一人では限界がある……」
味方をつけて、見方を増やせ。そう大学の恩師に教わった。ジゲンゲートを調べて「鍵を持つ人」の跡を辿るか、「鍵を持つ人」にジゲンゲートの場所を訊ねるか。私は二つの方法しか浮かばなかった。
「あの子に手を貸してもらえるなら…………」
昔、田端先生のお宅に絵が飾ってあった。クリームイエローのフリルブラウスとチョコレートカラーのスカートが、ミモザ畑に溶け込んだあの子。ゲートの閉鎖が原因で、他ジゲンからジゲンⅢへの通行に制限がかかった。あの子は絵の外へ出られず、会話しかできなかった。
「親父はどう解決するんだろうな」
全力投球がモットーだった親父の背中が、大きくて妬ましい。私は、まだ冷えているわらび餅をつまようじで刺して、口に放り込んだ。