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Ⅲ時限目(予鈴)

 少女は、毎日午前四時に目を覚ます。置き時計のアラームは鳴らさない。家族の眠りを邪魔してしまっては、悪いからだ。携帯電話は無い。高校生になるまでは持たせない、が家の決まりだった。それに、少女も欲しいとは思っていなかった。少女の体内で、時が正確に刻まれていて、起きられるのだ。

 なるべく音を立てないように、布団を畳み、押し入れにしまう。先月末出したブランケットは、少女の好きな青色だ。柄は籠目、竹籠の網目を文様にしており、魔除けの力がある。子に対する思いの深さを噛み締められた。

 静かに階段を下りて、顔を洗い、タオルを新しい物に替えた。細かな配慮が、家族の負担を減らし、幸福感の維持につながる。

 部屋に戻り、浴衣を脱ぎ、制服を着る。少女が通う明鏡中学校は、濃紺のセーラー服だった。スカートとお腹の隙間がまた広くなった。あまり食べていないからだろう。食欲が無いわけではない。ご飯やおやつよりも楽しいことに時間を使っていたのだ。しかし、このまま痩せていくと家族が気を揉んでしまう。今日からカロリーが高い物をすすんで摂ろう。

 朝ご飯に呼ばれるまで、少女は小説を書く。学校の部活動で発表するための作品だ。テーマは顧問に決められている。「ぷかぷか」する物や出来事だったら自由、題して「夏のぷかぷか企画」だ。少女は、クラゲの恋物語を思いついた。先月の一泊移住で、本物のクラゲを見たり触ったりしたことを、いつか文章にしたかったのだ。

 少女の極めたいジャンルは、恋愛だ。初めて読んだ本に刺激を受けて、似たような話を書いた。拙かった。情緒に欠けていて、言葉足らずで、すぐに破り捨てたくなる仕上がりだった。あの本は、世界でとても有名な恋の話だ。華やかな舞台だけれど、愛する人を失い続ける。多くの人物が登場して、それぞれにドラマがある。作者が一人の女性であることにも、驚いた。この世界には、人々の心を丁寧に言葉で表現できる人間がいるのか。

 実は少女に、好きな人がいる。少女よりも年が上で、働いている。女の子達が「禁断の」という枕詞を付ける恋だ。

 その人とは、随分前に会っている。外見と口調が変わっても、少女にはその人だと分かるのだ。友達が「運命の人」だと言っていた。正しいと思う。

 家族が少女を呼ぶ。全員で食事をする。支度を済ませ、家を出る。この時、いつも少女は、家族を幸せにできているかを考える。家族と血がつながっていない。少女は転がり込んだのだ。同じ年の女の子を亡くした、この家に。

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