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Ⅱ時限目(16)
エメラルドの海中が式場だった。パールホワイトの砂に、昆布の茣蓙が敷かれ、私達はその一枚に座らされていた。
「かなり高砂席に近いな……」
「わしが仲人じゃからのう」
サンドバッグに見紛いかねない黒い棒が、私とロロの間で微かに揺れていた。
「やはり、本来の姿で臨むんですね」
「正装も兼ねておるぞ。ふはは」
太鼓が鳴り、パイプオルガンの演奏が続く。高砂席に置かれていたシャコ貝が開き、人魚と、襷をかけた黒い棒が座礼した。
「ヒオ様、おめでとうございます!」
二人を祝う声に、ロロのものも混じっていた。
「異なるジゲンの住人同士が、結婚……。『ジゲン見聞録』には」
目黒先生が蛤の盃を、私の口に押し当てた。
「無粋じゃよ。あの書物を頼り切ってはならぬ」
場を弁えていなかった。『ジゲン見聞録』には、異なるジゲンの恋愛は全て悲しい結末だった。
「教皇と王が婚姻を許したことに驚愕した、と言いたかったのじゃろう? 互いが好きなのじゃ、誰が禁ずる?」
新婦の黄色い真珠と、新郎のイカ墨より黒いかりんとうが交換され、晴れて夫婦となった。




