表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/52

Ⅱ時限目(14)

「ほんまにあいつと行くんか」

 男子浴室の前で、共に監視していた田端先生が訊ねた。

「ロロを一人にさせるわけにはいきませんから」

 タオルを振り回しながら廊下へ出てゆく生徒を、田端先生はダミ声で一喝した。

「あんたのカバーは俺ができるわ。同じ巡回場所やからな。あいつは五階のマーチフラワーやろ」

「影武者に頼んであるそうですよ」

「どんだけ高貴なご身分やねん、まっくろクロベエは」

 今度は私が、冬用体操着ズボンを腰骨より下に穿いていたグループに「裾を誤って踏んだら怪我をする」と指摘した。ちなみに、マーチフラワーは部屋名だ。船の名前に統一したセンターに、天晴れである。

「俺、さっき見てもうたんやけどな」

 田端先生が耳打ちする。

「あいつ、臑毛の分身集めて、指示してたで」

 語調からして、結婚式の余興についてではないことは明らかだった。

「ロロちゃんとあんたを袋叩きにするそうや」

 タバえもんとサスペンがイチャイチャしている、など囃す生徒達に、田端先生が近づいた。三秒ぐらいして、生徒達は下腹部を隠して逃げていった。

「定年前だから何をしても良いのではありませんよ」

「ただの怪談や」

 私の耳が「か」と「わ」を聞き違えていないか、不安だった。

「当たり前やけど、抜けられたらしんどいんやで。二組の悪ガキ長橋(ながはし)をマークしいの、俺らんとこの高見(たかみ)が喘息の発作大丈夫なんか見いの、地味にバタバタするんやぞ」

 目黒先生の企みを知ってなお、式に参列するのか。

「先生、去年の一泊移住も一緒に見張っていましたよね」

「おん? そうやな」

「一つしかない個室の便所で、作業をすると仰って三十分」

 田端先生は形容し難い顔をしていた。

「今日で相殺しませんか」

 内気な生徒に、次の集合場所を問われる。私は手元の館内平面図を広げてやり、ここだと教えた。

「ずっこいとこまで遺伝したな。おう、交渉成立にしたるわ」

 先生はデニムのエプロンに備わった帆布のポケットをまさぐり、折り畳み傘を抜き取った。

「ロロちゃんを守ったり。持ってて損はせえへん」

 心して拝受する。

「ジゲンⅠの偉いさんに、あいつをしつけ直してもらえ!」

「先生の分の引き出物も、戴いていきますよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ