Ⅱ時限目(14)
「ほんまにあいつと行くんか」
男子浴室の前で、共に監視していた田端先生が訊ねた。
「ロロを一人にさせるわけにはいきませんから」
タオルを振り回しながら廊下へ出てゆく生徒を、田端先生はダミ声で一喝した。
「あんたのカバーは俺ができるわ。同じ巡回場所やからな。あいつは五階のマーチフラワーやろ」
「影武者に頼んであるそうですよ」
「どんだけ高貴なご身分やねん、まっくろクロベエは」
今度は私が、冬用体操着ズボンを腰骨より下に穿いていたグループに「裾を誤って踏んだら怪我をする」と指摘した。ちなみに、マーチフラワーは部屋名だ。船の名前に統一したセンターに、天晴れである。
「俺、さっき見てもうたんやけどな」
田端先生が耳打ちする。
「あいつ、臑毛の分身集めて、指示してたで」
語調からして、結婚式の余興についてではないことは明らかだった。
「ロロちゃんとあんたを袋叩きにするそうや」
タバえもんとサスペンがイチャイチャしている、など囃す生徒達に、田端先生が近づいた。三秒ぐらいして、生徒達は下腹部を隠して逃げていった。
「定年前だから何をしても良いのではありませんよ」
「ただの怪談や」
私の耳が「か」と「わ」を聞き違えていないか、不安だった。
「当たり前やけど、抜けられたらしんどいんやで。二組の悪ガキ長橋をマークしいの、俺らんとこの高見が喘息の発作大丈夫なんか見いの、地味にバタバタするんやぞ」
目黒先生の企みを知ってなお、式に参列するのか。
「先生、去年の一泊移住も一緒に見張っていましたよね」
「おん? そうやな」
「一つしかない個室の便所で、作業をすると仰って三十分」
田端先生は形容し難い顔をしていた。
「今日で相殺しませんか」
内気な生徒に、次の集合場所を問われる。私は手元の館内平面図を広げてやり、ここだと教えた。
「ずっこいとこまで遺伝したな。おう、交渉成立にしたるわ」
先生はデニムのエプロンに備わった帆布のポケットをまさぐり、折り畳み傘を抜き取った。
「ロロちゃんを守ったり。持ってて損はせえへん」
心して拝受する。
「ジゲンⅠの偉いさんに、あいつをしつけ直してもらえ!」
「先生の分の引き出物も、戴いていきますよ」