Ⅱ時限目(12)
野外炊さんでカレーライスを食べ、一組と三組、二組と四組の二チームに分かれてマリンプログラムに臨む。
「私もカッター漕ぎたかったです……」
一組の副担任・目白先生が、麦わら帽子を深くかぶって、ため息をついた。カッター体験は、担任が生徒と同乗して、副担任は船着場で待機だった。
「鶯谷先生は、船に乗ったことありますか?」
「小学生の時に、おじとスワンボートを」
おじはおじでも、血縁者ではなく田端おじさんだ。
「スワンボートですか! ペダルですよね? 二人で肩を寄せ合って……きゃ」
ご自分と男性を想像したのだろう。目白先生の周辺にハートマークもしくは桃色の空気が漂っていそうだった。
「あっ、シャツ、錨の柄なんですね。もしかして、この日のために?」
「特に考えていませんでした。ハンガーに掛けてあったので」
衣服は消耗品を除き、親父の遺品だ。体型が似たことは、得したと思う。
「そうなんですか」
受け答えが下手だったか。不快にさせたままでは良心が咎める。立て直さなければ。
「そのカーディガン、綺麗な色ですね」
私に下心があったなら、世の風紀は荒れに荒れているだろう。率直に申しただけだ。
「大好きなブランドの新色なんですよね。ミルキーマカロンミントってオリジナルの色なんだそうです。あはっ、嬉しいな」
袖を撫でて、目白先生は子どものようにはにかんだ。もし似合っている・似合っていないの二択を迫られた場合、前者で回答する。不相応だったら、最初からカーディガンを取り上げていない。
「職場におしゃれなんて、生意気だって怒る先生もいらっしゃるんです。鶯谷先生は、分かってくださってほっとしています! うん……鶯谷先生に分かってもらえるなら、他はいらない」
適当に首を縦に振っておく。ボートが着いたので、私は、生徒の様子を伺いに行った。




