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Ⅱ時限目(11)

 どうやら私は、茶柱のご利益にあずかれなかったようだ。

「ダニーの歌、ヤバかったよね」

「音痴だったら、かわいいなで終わったけど、あれはマジでウケる」

「サスペンって、あんなキャラだった?」

「知らねー」

 海洋センターに到着し、各担任が人数確認をする中、生徒達はバス内レクリエーションの感想を言い合っていた。ダニーとサスペンは、私のあだ名だ。前者は名字が、後者はいつも着用しているサスペンダーが由来である。

「静かに。今後の予定について大事な説明があるぞ」

 私が通った瞬間には黙るのだが、またしゃべり始める。いたちごっこの典型例だ。私が中学生だった頃は、私語をすれば男女容赦なく臀部を竹刀でぶたれていた。温室育ちの子どもが社会に出たら、ますますわが国は脆弱になりそうだ。

 田端先生が人差し指をいろいろな方向に振って、チェックシートと生徒を見比べていた。

「盛り上げ役やってくれてありがとさん、鶯谷先生」

 礼なら、押しの強いマダム添乗員にしてほしい。

「音楽の才能あったんやな。最高やったわ」

 買い被られた。人前で歌う時、意識しなくても謡曲調になってしまうのだ。唱歌『朧月夜』を選曲したことも拙かった。

「俺の一発芸はスベってもうた。なんでやろ」

 東洲斎写楽「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」の物真似で笑いをとれるほど、彼と彼女達の教養は深くない。細かいあまり伝わっていない芸の選手権にエントリーしてはどうだろう。

 参加者が全員いると分かり、学年主任は号令台に上り、メガホンを構えた。

 こいつは生徒に対しても、粘っこく話す。集会が五分遅れた原因を、古生代と絡めて糾弾している。要は「最近の若者は云々」ではないか。

「わしの国にもおったのう。西方軍の小隊長じゃったが、神経質ゆえに腸を悪くして、定年を待たずに退役したのじゃ」

 潔く辞めてくれるだけありがたい。ジゲンⅢの役所や学校は、病気休暇に甘んじて、惰眠を貪りながら手当をもらって在籍し続ける職員があふれつつある。治療して復帰したとしても……愚痴はここまでにしよう。

「若造、ジゲンⅡのスクエイアはいずこぞ?」

 私はシャツの胸ポケットを指した。

「ボールペンに姿を変えてもらっています」

「文具に変化するマホーじゃろ。意外と手練れなのじゃな」

 ロロは、マホーの使用許可ランク8だった。スクエイアに任命されて間もなく昇格試験を受けさせられたそうだ。ジゲンⅡのトップ・教皇はランク12である。スクエイアに相当な強さを求められていることが窺えるだろう。

「今宵、二十三時五十五分、研修棟一階の海球儀じゃ。忘れるでないぞ」

 英語科のお局が鼻を鳴らした。私と目黒先生は居ずまいをただしたのだった。

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