Ⅱ時限目(9)
窓を背にして、私は『ジゲン見聞録』の冒頭を読んでいた。旧校舎の研究室でも良かったのだが、ちょうど美術準備室が静かになったのだ。田端先生は隣の美術室で部員の指導に、ロロはジゲンⅡへ報告に帰り、目黒先生はチェス同好会に連れ戻された。
「かぎをつくりました」の前は、鍵の修飾語だろう。先日の石は、父に刺さった光る鍵の原料ではないかと思った。だが、父は石にされなかった。毒を抜いて作ったか。それとも類似した物を使っているか、だ。
スクエイアがゲートを探知して、「鍵を持つ人」が再び封印する流れなのだろうか。「鍵を持つ人」がジゲンⅢのスクエイアの可能性もあり得る。
「その前に親父が見つかれば理想なんだが」
うなじに違和感を覚え、手を回す。折り紙の手裏剣が差し込まれていた。
(優雅に読書? 教師は暇な職業ね、ウグイスダニ)
脳内に言葉の雪が降る。跡見さんからだ。
(クロエの誘いを受けてはいけない。ジゲンⅠは、異なるジゲンを攻撃する)
当然、目黒先生を完全に信用していない。しかし、リスクを冒してでも二人目のスクエイアに会いたい。座ってばかりでジゲン研究は進まないのだ。
(ロロとも深く関わらないことね。ウグイスダニのために忠告するわ)
手裏剣が私を離れて、ラジオに当たった。意地悪のつもりか、電源が入れられており、急いで音量を下げた。帯番組「ゆうがたリフレッシュ」のDJは、非常に通る声なので小さくしても話が聞き取れる。
「君に心配をかけられるとはね」
ありがとう。お守りとして、この折り紙を身に付けて一泊移住に臨むよ。