Ⅱ時限目(雑談)
「おお、それか。綺麗だろ?」
息子が、ライティングデスクの棚に並んであった石を指差した。
「こないだのフィールドワークで、削ってきたんだぜ。メロンソーダみたいだよな!」
父は、あだあだ言う息子を抱き上げた。
「普通じゃ採れなくてさ、父ちゃん、久々にマブダチとやんちゃしてゲットしたんだ。母ちゃんとケーサツには、内緒だぞ」
息子を膝に跨らせて、前後に自分の体を揺らす。
「こ、こ、こーひきさん。メロンソーダのんで、ぷく、ぷく、ぷく」
きゃきゃきゃ、狸のような田舎くさい顔をしておいて、息子は甲高い声を出す。
「ハンサムな父ちゃんと、もっとハンサムな母ちゃんの間にできたってのにさ、お前は野暮ったいな」
貶しているわけではなかった。美貌に吸い寄せられる人の中には、病み腐った輩もいて、辛き目に遭った。一粒種は、このまま育てば、不運を免れるだろう。
「大きくなったらどんな男になるんだか。父ちゃんと違って、真面目にコツコツ勉強して、偉い奴になっているかもしれないな」
羽二重餅のごときほっぺをこねてやり、父は剽軽な表情から一転、深刻な顔つきをした。
「お前の運命をぶっとばす。おれが、代わりにやってやるんだ」
息子が、踏切の警報音の真似をしはじめた。おんぶして、父は電車になりきってやったのだった。