Ⅱ時限目(3)
「わたくしめより先に、ジゲンⅢのスクエイアが、四輪市にいらっしゃるかもしれないのですよね」
「現地人が、ゲートのオーラを早く察するんじゃないかと思うんだ」
ロロにお茶をあげた。2リットルペットボトルの麦茶を水筒に詰めただけなのだが、たいそう喜んでくれた。
「平和を重んじるお方でありますように」
羨ましい。物事に明るいイメージを抱けて。私は十代前半までだった。親父をどこかのジゲンに飛ばしてしまった後、町の人々は母と私に対してやけに優しく接するようになった。温情だと信じていたが、偶然、母抜きの井戸端会議を耳にした。父親が欠けた私達を不幸者と認識して、自分達の貧しさや社会的地位の低さを「まだましなもの」にさせたのだ。
早かれ遅かれ、疑う癖と裏を読む癖は身につく。ジゲンⅢ流の処世術だ。
「ジゲンⅡは住人からスクエイアを選んでいたようだけれど、他のジゲンは違うのかな」
問いかけながら、わが国の裁判員制度を想起した。未だに私は呼び出されていない。本当に生きている制度なのか怪しい。
「教皇が申すには、ジゲンⅠは王様が務めていらっしゃるそうです」
ジゲンⅠ、線と黒の世界か。旅するには灯りが必須の、常闇の国だ。
「ジゲンⅠの王様とは、初めてお目にかかります。伝説によりますと、戦いがとてもお強いのだとか」
ゲートの暴走を機に、侵略するつもりではないだろうな。
「他のスクエイアに、粗相が無いように致さなければなりませんね!」
新聞・テレビ・インターネットに、スクエイアやジゲンゲートに関するニュースは発表されていなかった。あえて伏せているのか、キャッチできていないのか。秘密にする方が無難だ。口の堅さには自信が有る。
「早いけれどお弁当にしよう。ロロ、皆を呼んできて」
ロロは屈託の無い笑顔で返事した。