Ⅱ時限目(2)
ロロと小人達が初めてジゲンⅢに足を下ろした夕べ、私と田端先生は、ジゲンに何が起こっているかを教えてもらった。
「わたくしめと、スクエイアを探していただけますか」
真剣かつ焦っている面差しのロロに、私は椅子を勧めた。
「息を深く吸って、吐いて」
物言いたげな目をしつつも、ロロは腹をへこませた。
「急いでいる気持ちは伝わる。でも、そういう時ほどゆったり構えてほしい」
「はい……」
「ジゲンゲートの暴走を放っておくと、どうなるのかな?」
ロロは、膝に乗せた両手でスカートを軽く握った。
「…………分かりかねます」
「マー坊、あれこれ質問しまくるんちゃうで」
ジュースをそばに置いてくれた田端先生に、ロロはおかっぱ頭を大きく横に振った。
「結果が分かりかねますので、教皇は恐れているのでございます。何も伝えないでいましたら、民に不安を募らせてしまう、と日夜悩んでおります」
ジゲンに災厄が降りかかるなら、皆に注意を呼びかけ、早急に対策を打てるだろう。逆に、僥倖に恵まれるなら、皆を活気づけ、式典の準備に忙しくなるだろう。
「俺やったら、良い方に賭けるけどな」
温め直したパニーニに息を吹きかけて、田端先生は仰った。
「ジゲンⅡのお偉いさんは、国民を一番に考えてくれてるんやな。どこぞの総理に爪の垢煎じて飲ませたいわ!」
先生は、ご自分で淹れたエスプレッソにしかめ面した。
「他のジゲンが、ゲートの暴走についてどう考えているかは、知らない……か」
「今日、ジゲンⅢに入れたばかりですので」
パンナコッタをロロの方に寄せて、私はパニーニにかぶりついた。
「ロロちゃんの力になりたいんやけどな、担任やってるといろいろ立て込んでまうんや。来月の一泊移住が済んだらでええか?」
「ありがとうございます、おじさま……!」
来月の三週目に、一・二年生の宿泊行事を控えていた。もちろん田端学級副担任の私も、引率等を務める。なお、一泊移住は、わが国泰盤府独特の呼び方であり、府の東部に位置する四輪市もそれにならう。
ジゲンⅢである程度生きていると、自由な時間の確保が難しくなる。優先すべきことが年々、増えていくのだ。
子どもの頃に仲良くなったジゲンⅡの女の子が、大役を任された。教皇は、なぜロロに命運を託したのだろうか。この子には、歌と苺のお菓子が似合うのだ。
「ロロ、今度の連休に市内を巡ろう」
「真坊ちゃん」
彼女の潤んだ瞳に映っていたものは、坊ちゃんにしては背が高く、肩幅の広い朴念仁だった。