Ⅰ時限目(11)
朝顔の飾りを付けた小人は、積み木でお城を組み立てることに夢中だった。
十分前は、新校舎北棟の五階、武道場にて竹刀を打ち合う人々を観ていた。自分も刀を振りたくなった時、天井と畳がねじ曲がり、渦を巻いた。
次に起きたら、不気味で湿っぽい建物にいた。アイボリーの廊下へ行こうとしたが、透明な網がかかっているかのようで、先へ進めなかった。
汚そうな所に閉じ込められて腹を立てた小人は、マホーで蛍光灯を光らせた。ましな雰囲気に機嫌を直し、スキップしていると、チューリップの切り絵がたくさん貼ってある部屋を見つけた。ジゲンⅡには黄色のチューリップしか咲いていないけれど、ジゲンⅢは赤・ピンク・白・紫と色とりどりだった。
お花畑みたいな部屋の中がどうなっているか知りたくて、マホーをかけて忍び込んだ。ジグソーパズルのようなコルクマットが敷いてあり、角が丸くて温かみのある机と椅子が端に固まって置かれ、ジゲンⅢでいう万国旗のガーランドが壁の周りを賑やかにしてあった。そしておもちゃが山積みされたコンテナ! パーティー会場に来たんだ!
マホーを唱えてコンテナを横倒しにし、積み木を得たのである。
「かんせいしたら、みんなをしょうたいするんだ!」
「おっちゃんも、招いてもらわれへんか?」
「!!」
エプロンの太ったおじさんが、口を大きく開けていた。
「たべられちゃう!」
「観念するんや! 夏!」
なつ? まだ春なのに?
「ぼくのなまえ?」
「他に何があるんや! 夏!」
「ちがうよ」
おじさんの顔がぐちゃぐちゃに歪んだ。
「やったら、夏男! 夏太郎! 夏彦! まさかの夏子! 夏美!」
たくさん答えを出してくれているのに、悪いけど。
「ぜんぶはずれ」
おじさんは吠えて、床を踏み鳴らした。
「日本語ちゃうんか!? サマーは!?」
「ふせいかい」
グローブらしき物を投げ捨てて、おじさんは四つん這いになった。小人は、かわいそうに思った。
「いみは、なつなんだけどね」
うつむいて、うんうんうなっている。聞いていなかったみたいだ。
「おしかったね、ばいばい」
小人はおじさんの背中山を飛び越えて、部屋を後にした。お片付けは、おじさんにやってもらおうっと。