タマゴ三昧
俺はタマゴが大好物、1日3個毎食食っている。
本当は1日に10数個食いたいのだけど妻と交際していた時に、1日一パックのタマゴを食している俺を見て激怒した妻にぶっ飛ばされた挙句に、「1日一パック食べる金があるなら貯金しろー!」と怒られたんで我慢してるんだ。
そんな俺にタマゴを好きなだけ食えるチャンスが巡って来るなんて……。
って言ってもそれを理由に狂乱乱舞するわけにはいかない何故かって言うと、俺の車を含めて数台のトラックや乗用車とそれらに乗っていた人たちが雪に閉じ込められているからだ。
日本全国にドカ雪が降り幹線道路を含む全国の道路で、計画的な通行止めや雪により走行不能になった車で詰まった渋滞が起こる。
まだ幹線道路などの元々車の往来が多かった道には、詰まった事が分かった時点で警察や自衛隊が救助に出動した。
でも俺の車が詰まった道は山奥にある殆ど使われなくなった旧道、此れは後から、救助されてから知った事なんだけど、俺の車を含む数台の車が雪による渋滞を回避しようと幹線道路から旧道に曲がった30分程後に、旧道に至る曲がり角が封鎖され通行止めになったらしい。
ただ封鎖した時に旧道に向かった車の轍か残っていれば封鎖した土木事務所の職員も気がつき、早期に動けなくなった車がいないか調べに来たのだろうけど降り続く雪でその轍が埋まり消え去っていたために気が付かず、そのため俺たちが旧道の中程でにっちもさっちも行かなくなっている事に気が付かれるまで可也の時間を要する事になった。
先頭を走っていたトラックが降り積もった雪で動けなくなり詰まる。
一車線の曲がりくねった道だった為に追い抜く事もバックする事も無理。
山奥すぎてスマホは圏外だし歩いて助けを求めに行ったら遭難する事間違い無し、って感じで俺たちは雪に閉じ込められる。
それでも最初は一晩車の中で待機していれば救助して貰えると思ってた、渋滞に備えて皆んな1〜2食分くらいの食い物やホッカイロなどの防寒用具を備えていたからな。
でも一晩経っても救助は来ず雪だけは降り続く。
何時救助が来るか分からず不安な2回目の夜を過ごした次の日の朝、俺の前に止まっていた養鶏場の配送トラックの運転手が積荷のタマゴを緊急時だから食ってくれと提供してくれた。
俺は良い生タマゴだろうとなんだろうとタマゴか食えれば万々歳たからな、でも他の人たちはタマゴを提供されても料理出来ず途方にくれる。
何とか道の両脇に生える木々を切り倒し薪を得る事は出来ないか? と周りを見渡していた人が、突然大声で叫んだ。
「オイ! 皆んなあそこを見ろ」
降り続く雪に遮られよく見えないけれど彼が指さしている、道の脇十数メートル下の所は他と違ってた。
指さされた所だけ降り積もる雪が無く、靄のような湯気のような物が立ち昇っている。
「もしかして温泉か?」
車に積んでいたロープで下に降りそこに近寄ってみる。
それは誰かが言ったように温泉だった。
温泉と言っても湯量は少なく、湯か湧き出てると言うより滲み出てると言った方が近いような物だったけど。
でも此の温泉のお陰で俺たちは救助隊が来るまで生き延びる事が出来た。
滲み出ている温泉が塩化物泉だったらしくしょっぱかったので、タマゴを茹でて塩味のゆで卵や温泉タマゴを作るだけで無く、雪を温泉で溶かし沸騰させて飲水を確保したり、温泉の湯をペットボトルに詰めて湯たんぽ代わりにしたりして暖をとる事が出来たからだ。
雪に閉じ込められてから10日後、俺たちは県警のヘリコプターに発見され救助される。
救助された養鶏場の配送トラックの運転手を含む俺以外の人たちは、もう暫くはタマゴを見たくも食べたくも無いって言って苦笑いしてたけど、他の人たちが呆れる程タマゴを大量に食べてた俺は、タマゴ三昧の日々が終わってしまい逆に肩を落としていた。