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馬車とは違い、布団で寝られるとかなり疲れも取れるものでぐっすりと寝て起きたのですが、寝起きはとても驚くことに。
「起きた?」
「……はい」
扉の方を見ると夜寝るときに鍵をかけていたはずなのですが、
「ギルド職員さんはマスターキーを持っています」
そりゃ、ここにいる以上そう言う事だろうというのはすぐに分かるのですが、
「朝ごはんのお話で起こしに来たのです」
「あ、はい。ありがたくいただきます」
「朝ごはんいっちょぉー」
ここでいきなりそんな大きな声を出したからと言って返事があるとは思えないのですが、何故か凄く遠くの方から「あいよー」という返事が聞こえたような気もしていて。
「ちゃんと寝間着を着てくれたのですね。うんうん、流石期待の新人ハンターさんです。ついでに昨日の服だと危ないと思うので、そっちのハンター用の服……入ります?」
「あー、この通りのお腹なのでギリギリかもしれないです」
「うんうん。ふとっちょさんのハンターってあまりいないので、仕方ないのですがまあ着てみると分かると思いますので、着替えをしてから降りてきてください」
それだけ言うとレベッカさんはシュタタッと凄い速さで部屋を出て行ったので、着替えを済ませるのですが、どうやらこの服は地球で言うところのゴム素材のようなものだったみたいで、太っていても問題なくきつく感じる事もなく着替えを済ませる事ができます。そして昨日夕飯を食べた机に向かうと、そこにはごく普通な朝食がしっかりと用意されています。
そしてその横を見ると昨日の門番さん達が二人共そこに居るのですが、パッと見てもどっちがどっち?という感じで見分けはつかないのですが、
「おう、無事ハンターになれたんだな?」
「あ、昨日はありがとうございます」
「うんうん。ハンター基礎を今日からやるからまあ頑張ってくれよ?」
「あ、はい」
多分先に声を掛けてくれた人が街に入った時の人で、後の人はハンターカードを貰ってから行くのを阻止した人だと思えて、顔や姿かたちはほとんど一緒なのですが微妙に声だけは違いがあるのでそれで違いは分かりそうな感じ。
そんなことを考えながらも食事を済ませると、奥の方から昨日のカップルのようなハンターさん達も出てきて、昨日のメンバーが全員ココにそろった感じなのですが、
「とりあえず今日は草とキノコ集めて来てね!ただ飯は三日までだからっ!」
「あの森を抜けて来た奴にそんな事言うことは無いだろう?」
「そうはいってもこの村だってそこまで豊かってわけじゃないんだからさー」
「まあ、それを言われると何も言い返せないが、それでももう少し色々とあるだろう?言い方とか」
「その結果は?」
「……すまん」
「にひ。許さない。お夕飯のおかず一つね?」
「そこは許すところだろうが?」
返事をする間もなく、昨日と同じ仕事をレベッカさんに言われるのですが、手招きをしているのは門番さん。
「ここは村だから殆ど街の様なプライバシーは無いから、そればかりは諦めてくれ。で、薬草はこういうやつで、裏に白い斑点がない奴で、きのこは見ればすぐわかると思うが、こんな形をした赤い奴だ。もし青いキノコをみつけたらそれも取って大丈夫だぞ」
そんな雑な説明で大丈夫なのかと言いたいのですが、なんとなくそれを察したのでしょう。
「キノコも薬草もそれぐらいしかないから他の物を見つけようとしない限り見つけられないさ。まあ、青いキノコはそれこそ昨日のような時間から夜にかけていくとうっすらと光るからそれで探すのがいいんだが、まあある程度獣も出るからな」
と、簡単に説明をしてくれます。
ついでに聞きたいことが無いのかと言われると質問したいことは一杯あるのですが、とりあえず今知りたいことはその薬草とキノコを探す場所。
「何処に行けばそれを見つけられるんです?」
「あー、昨日来たのと反対側だぞ。それで言うならそもそもおたくは何処から来たんだ?」
「そういえば無一文で森から出て来たって聞いたが、あの森にあるのなんて……」
視線が纏まって一気にこっちを向くのですが、自分も正直どうしてこっちに来たのかは分かっていない状態。隠すことがあるかと言われると微妙なのですが、正直に話しても大丈夫なのかもあまりわかっていないので悩んでいると、
「おいおい、ハンターはお互いを詮索しないだろう」
「おっと、基本的な事を忘れていたな」
「だな。まあ、悪い事したわけじゃない事は分かるからな」
その一言で視線が散り散りになったので何も言わないままでいたのですが、
「場所が分からないんじゃ仕方ない。一緒に行くか」
「って事で、門番はレベッカに任せるぞ?」
「え?あたし?」
「だって、他に人員いないだろう?」
「ヒックスはいつもの場所だろ?で俺はこいつと一緒に行くわけだから、そうなると?」
「こっちの門番がたりなーい。成る程成る程。じゃあ、私と一緒に……いく?」
「「駄目 (だ)」」
すぐに門番の二人からノーの返事があって、レベッカさんはブーブーと本当に言いながら二人のすねの辺りを結構マジな勢いで蹴り続けているのですが、なかなかそれは器用で右、左と二人のすねをしっかりと交互に蹴り続けます。
流石にそろそろやめてくれと中止を求めてもやめるつもりはなさそうなまま。
「仕方ない。門番を私がしてあげるから、夕飯のおかずは二品ね!」
「それだと食べるものが無くなるんだが?」
「仕方ないよ。口は災いの元だからね」
その一言に対して更になにかを言おうとしていたみたいですが、言っても仕方がない事は分かっているみたいでグッと堪えたのは多分ヒックスさん。
「じゃ、行こうか」
どたばたとしながらも、朝食と軽いミーティングみたいな雑談が終わって、早速ハンターのお仕事……お手伝い?素材回収?を始める事になります。