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揺れる馬車の荷台というのは生前?の電車の中や車の中を思い出すようなもので、異世界の荷台のイメージにサスペンションなどは無くお尻が痛いイメージを持っていたのですが、そんなことは全くないという嬉しい誤算に。
そしてそんな嬉しい誤算は、食料が無いという絶望的な話を忘れさせるには十分で、規則的な揺れとちょっと動いた疲れが重なって、うつらうつらとしているうちにそのまま眠りこける事に。
ガタガタ
今までにない揺れで起きる事になったのですが、かなり道の状態は悪そうな事がすぐに分かります。
ただ、馬車の荷台に勝手に乗っている今の自分にやれることは何もなくて、ぼーっとしていたのですが、ゆっくりとスピードが落ちていくとどうやら馬車は停止。
「休憩?いや、ちょっとトイレか?」
奥の方に隠れて寝ていたのですが、幌の隙間から外を見てみると結構自分が想像していた以上に森の中という感じで、街の中に居た方がよかったと思えるぐらいにはかなりやばそうな風景が見えます。
正直に言って、もし馬車から降ろされても生きられるとは思えないような環境にしか見えないので、バッと幌を閉じたのですが、
「いやいやいやいや……まさか?」
えーっと、こっちの世界に来て訳も分からず人の家っぽい所を散策して、靴をパクって家を出て、ナーロッパにワクワクしながらも人の目が死んでいる事が気持ち悪くて、馬車に飛び乗って、それから……どのぐらいか分からないけど寝ていて、起きた訳で。
「まあ、寝起きって……あるよね」
独り言に勿論返事は無いのですが、心の中でつぶやくよりも言葉にしたいの。
だって寂しいから。
って、それはどうでもよくて、いや、よくないけど、寝起きってトイレ行きたくなるよね?
「いやいや、ここで漏らすのはまずいよな。でも、時間的に降りて、していたら動いちゃうかもしれないし……」
ありえない状況にありながらも、色々なシュミュレーションを頭の中でしてみるのですが、どれもこれもいい結果に繋がるものはなさそうで。
「普通に挨拶して乗せてくれとは言えないし、あー、もう。考えていたらどんどんしたくなってきた、くそっ」
悩みに悩んだ結果、選んだことは降りてサクッと済ませるという選択。
出来るだけ音をたてないように注意して、タタッと降りてすぐに後ろを振り返るとそこには馬車がしっかりといてくれる状態。
「あまり離れると怖いけど、近すぎても音が聞こえるから……」
降りてみるとわかるのは幌の中から見ているよりもこの森は暗く、光が余り差し込んでいないことがわかる森で、遠くの方で鳥や獣の声も聞こえて改めて自分が生き残るのは厳しい環境だとわかったので、馬車からあまり離れないように注意してササっと済ませるつもりなのですが、
「おおぅ……キレが悪い……」
いい年のおっさん、いやおじさん?まぁ何でもいいや。若くない体だとピッと終わるわけじゃなくて、さらに言えば微妙に残っている感じもあって少し時間をかけてしまって、慌てながらもトイレを済ませたらすぐに馬車へ。
「置いていかれなくてよかった……」
すぐに乗り込んで、さっきの位置でまたじっとするのですが、やることが無い時の揺れというのは凄くいい眠気を呼ぶもので。
気がつけばまた寝てしまう事に。
次に起きた時はお腹がグーと鳴っていて、完全に腹減りの状態。
そして幌をそっと開けてみるとまたも馬車は止まっていてどうやら焚火をしているので今日はここで寝泊まりしそうな空気もあって。
「そう言う場所って事は、近くに水場くらいはあるはずだよな」
先程のトイレを済ませた時と同じ要領で馬車から降りて、音を出来るだけ立てずに道から森の方に移動すると、運のいい事にある音が耳に聞こえます。
「よっし、予想通り」
音のする方へ誘われるように行くと、そこには小さな沢があって念願と言っていい水を発見したのですが、
「……さて、この水は飲めるのか?」
確か沢の水って結構危険だった記憶があって、まだ湧き水の方が安全な気がするのですが、ここは森の中。
さらに言うと、二度ほど寝ていた事もあってお腹の減りもそうですが、喉の渇きもそうとうなもので。
「南無三っ!」
多分スーパーなロボットの大戦でも使っていたからこういう時に使う言葉だという、うろ覚えの知識で小さな声を出しながら両手で水を救ってごくごくと喉を鳴らすほどに水を飲むと、
「うめぇ」
思っていた以上に喉は乾いていたみたいで、一度飲んでしまえばもう怖がっていられるわけもなくそのままごくごくと飲む事に躊躇いは無くなって。
かなり満足になるほど水を飲んだのですが、何故か若干お腹も膨れたような感じに。
急いで馬車に戻って、またじっとしていたのですが数十分もしないうちに今までと違うお腹の音。
この音、そしてチクチクとした痛みに覚えはあって、少しそのままでいると次に襲ってきたのは吐き気。
「くっ、ここにいるわけにはいかないか……」
吐き気もあるという事は多分完全にさっきの水であたったのだろうと予想は付いたのですが、馬車の中で吐くわけにもいかず急いで馬車から降りて先ほどの沢の方へ向かうのですが、
「吐き気もあるしお腹も痛いのに、さっきこっちにあったよな?」
そこまで時間が経っていないし、方向音痴というわけでもないと思うのですが、さっき飲んだ水があったはずの沢がなぜか見つかりません。
そしてそのままもう少しと奥へ移動していると、今までとは全然違う全身に凄い痛みが。
「あががががあがが」
自分で今まで発したことのない声が口から勝手に出て、痛みが全身を走ります。それは足元から上に上がって最終的に首を超えて、最終的には酷い頭痛にまでなって。
その痛みに最初の五秒か十秒かは耐えていたのですが、立っている事も出来なくなってバタンと倒れて、そのまま気を失う事になります。