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扉を開けた先は、
「異世界な感じは……なし」
普通に家の廊下と変わらないような場所で、人の覚悟を返して欲しいと言いたくなるような状況になるのですが、
「……これは、人の家っぽいな」
きょろきょろと見回すことになるのですが、結構生活感のある人の家って感じ。
自分の家と違う事だけはすぐにわかりますが、人の家であれば食べ物もあるような気がするのでまずは物色……してみるか?
という思考になるのですが、
「異世界に転移して、最初にやることが物色……っていいのか?いや、ドラゴンなクエストのゲームだと、家探しは冒険に必須だけど……あれって勇者だから許されるわけだろう?」
自分の独り言に自分で返事をしているような変な状態で考えてみると、自分の今の状況は結構不利にしか思えず。
ただ、このままの恰好で外にでるのも微妙ではあるので、
「後で返すから、ちょっと借りるとかはセーフ……?」
という訳の分からない自分理論を展開しているのですが、目の前にあるのは何故かちょうど良さそうなサイズの靴。
「借りるというよりは、今度新品を返すから頂戴?かな」
出来れば靴下もあったら嬉しいのですが、そこまで贅沢を言える状況でもなさそうだったのでその靴を拝借。
王様から魔王を倒せとか無茶ぶりをされることもなく、ここを出発できるような足元の装備を手に入れられたので、
「この家ともおさらば、か」
何でここにいるのか、何があったのか、色々な疑問はあるのですがここにいたからといって食べるものにありつけるわけでもなさそうだったので、明らかに玄関っぽい方へ向かうと、日本的な家の玄関とは違う海外的な玄関を発見。
先程と違い、躊躇いも生まれずに扉を開けるとそこは待ちに待った異世界のはずなのですが、
「普通の街並みを期待していたのに……ここは、噂のアレじゃないか」
口に出してはいけない人の名前と同じような扱いにもなっている、まさにここは記憶通りのナーロッパ(なろう系+ヨーロッパ)な街並み。蔑称として使われることが多いのでやはり口に出すことは出来ないのですが、
「もしや、期待通りのアレが中心街にあるのでは?」
自分の位置が何処なのか分からないのでとりあえず歩き回るつもりはあるのですが、ここが予想通りであれば、中心街にはアレがあるはず。
とりあえず今いる位置が何処なのか分かっていない状態ですが、一定の方向に動けばなんとなくどうにかなりそうだという気持ちで歩き、細い道を抜けると予想通りに大きな道に。
「あの音は多分、アレがあるんじゃ……って事は、この街の形は円系かな?」
予想通りになりそうな気配はビンビンと来ているのですが、確認したい気持ちがあるので、とりあえず音の方へ向かってみると、
「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」
本日二度目のテンション爆上がりな状況に。
何がキタって、名物と言っても過言ではない街の真ん中に噴水ですよ?噴水。
水道設備が整っていないならまだしも、ある程度水道設備が整っている街に噴水はないだろう。それこそ水の街とかそう言うのであればまだ分からないまでもないけど、多分そんな感じではなく、本当にただ水が出ているだけにしか見えません。
「色々な意味でテンションは上がるけど、テンションより先に腹が減っているけど……どうしたもんかな」
お腹は減っているのですが、何かを食べるという事は、イコールで買うという事。先立つものが無いと何もできないのですが、あの家を出るときにちょっと拝借したのは靴だけ。他のなにも手を付けなかったのは自分としてはかなり偉いと思ったのですが、今となっては少しだけ後悔する部分もあって。
「靴を拝借したんだから、ちょっとぐらい金目のものも拝借してその内倍返し、いや十倍返しでもすればよかったか……」
コレは結構自分の記憶によくある、後悔先に立たずという状況。
家を出る前にその辺りしっかりと予測と計算をすればよかったのですが、勢いだけで動いてしまい、更にあまり方向音痴なつもりはないのですが何かこの街は少しだけ特殊みたいで、自分が先ほどと追った道を一応探してみるのですが、思った通りに何故か歩けません。
「戻ることも出来ないって事は、進むしかないけど……」
ここまで街に出て少し歩いているのですが、誰一人こちらを振り返る事もなく、疑問に思う人もなぜかいない状態。
更にちょっと怖いと思いながらも視線を合わせてみるのですが、相手側の目は虚ろに見えて、どこか上の空のような感じに見えます。
「声を掛けるのも躊躇っている場合じゃないけど……あの目はなぁ」
少しだけ記憶にあるような目にも見えると、体が動かないという程ではないのですが、積極的にかかわりたくはないと思える目。どうしようかと悩みながらも街を適当に歩いていると、
「馬車そろそろ出まーす」
という声が聞こえます。
その声には生気が宿っている声でちらっと目を見てみると周りの人とは違う虚ろではない目。あの人になら声を掛けられるという直感も働いたのですが、
「お金はないから事情を話すか……いや、もし咎められたらこの靴の話もしないといけないし……」
やましい事をした後というのは何をするのにも一々躊躇いが発生するというあまり体験したくない事を覚えるのですが、それ以上にこの街全体の虚ろな目の方が怖いという思いが強かったので、この歳になってこんなことをしないといけないのもどうかと思いながら、声をあげていた人が馬の方へ行ったのを見計らって、馬車の幌の中に少しだけダッシュして乗り込みます。
「(*´Д`)ハァハァ」
いつもあまり動いていない自分がいきなり走ってさらにジャンプまでしてよじ登る形になりながら無理矢理乗り込んだのですが、
「無計画過ぎたけど、誰もいなくてよかった」
人が一人でもいたらその時点でアウトだったはずですし、さらに言えば大きな音を立ててしまったので気がつかれる可能性もあるはずなのですが、何故かそんなこともなくゆっくりと馬車が進むと、すぐに馬車はまた停車。
え?やっぱりバレた?と慌てながら一応奥の方へ移動しつつ隠れていた方がそれっぽいという単純な理由で静かにしていると、
「荷物の搬送ですね。いつもお疲れ様です」
「いえいえ。ただ、長居できないっていうのは不思議ですね」
そんな会話をしている声が聞こえるのですが、どうやら荷物の確認をするつもりはないみたいで。
「ここから先の街は結構ありますが、食料とかは?」
「ココにあるので大丈夫です」
「では、お気をつけて」
その言葉と同時にまた馬車がゆっくりと動き始めたので、コソコソしながらも荷車の中を少しだけ探ってみるのですが、どの荷物にも食べるものなど入っておらず。
「馬車なのに食べ物が無い?マジかー。ココって言っていたのに無いって事は……前かぁ」
がっくりと肩を落として少し馬車に揺られることになります。