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「生きてるね?」
「ええ。生きていますよ?」
「さっき、すり抜けなかったよね?」
「ええ。あの、そろそろ……」
「よがっだあああああああああぁぁぁぁぁ」
女性に対して重たいとか言いそうになっていたのですが、その言葉が出るより先にすんごい大きな声で泣きわめいてしまったのがレベッカさん。
そしてこうなる事は予想していたと言わんばかりの顔になっているのがいつも料理を作ってくれているカップルなハンターさん達。
「いつもの二人は?」
「大事な門番仕事です。その代わりで私達が駆り出されました」
「あー、やっぱりあれって異常事態でした?」
「普通は途中で引き返すと思うんですけど、どういう脳みそしているんですかね?」
辛辣な言葉を頂きながらも、自分の上では未だに女性がわんわん泣いているのでちょっとだけ本当にちょっとだけドキドキしているのですが、その辺りはどうやら気にされていないみたいで。
「あの、そろそろ」
流石にそろそろドキドキよりも恥ずかしさのパラメーターが上がってきているのを感じたので、少しだけレベッカさんの肩を押そうとしてみたのですがこのタイミングで初めて自分がホールドされていることに気がつきます。そしてそのホールド力はかなりのモノで。
結構自分的には力を入れて肩を押したつもりだったのですがピクリとも動く様子はなく。
そして諦めるしかなくなった状況に溜息をつくのですが、かなりしっかりと泣いていたのもあって、泣き止むと同時に凄い速さで後ろに距離レベッカさんが取ります。
「こ、こほん。ぶ、無事でよかったです。ええ、ええ」
いや、全然繕えてないですけどね?
それを見ていたカップルの二人も苦笑いをするだけなのですが、コレでやっとゆっくりと話が出来ると思って、立ち上がろうとしたのですが微妙に腰の辺りが痛くあまり動きやすい状態ではない事に気がつきます。
「立てる?」
「いや、ちょっと待ってくださいね。さっきもビックリして腰を抜かしていたので、ちょっとだけそれがぶり返しちゃったみたいです」
「あー、二度あることは三度ある的な?」
「動かさない方がいい感じ?」
小刻みに頭を縦に振って、とりあえず少し待ってもらうつもりだったのですが理不尽は容赦してくれるはずもなく、勝手に自分の右手を取って引っ張り上げます。
「大丈夫、大丈夫。動けば治る」
「え、いや……」
「うわぁ」
「それはないわー」
驚きつつもその動きに静止を掛けてくれることを期待したのですが、そんな空気になるはずもなく、グイっと力強く引っ張り上げられると生まれたての小鹿と腰の曲がったお婆ちゃんを掛け合わせたようなぷるぷるしながら前屈みになりつつバランスを頑張って取ろうとしている凄く不思議な状態の人間が出来上がります。
「おお、おおお?あああ?」
腰自体は痛くないような気もして、微妙な感じですがとりあえずバランスを取るのが難しいので踵重心にして無理矢理バランスを取ってみる事に。
そんな状態なので下を向いたままなのですが、理不尽さんが気を使わずに死刑宣告を投げてきます。
「とりあえず、ベースキャンプのところはどうなった?」
「あー、一部壊れたみたいなのですが、やっぱり……」
「じゃあ、弁償だね」
「ですか」
「ですよ」
今日の宿代より少しぐらい多めにとった気はしていたはずですが、弁償となると今まで以上に稼がないといけないことは分かっているわけで。
この腰の状態というのもあってなかなか先は見えそうにないのですが、なんというか一週回って笑える状態になっている気が。
「借金というか、とりあえずまた前借ですかね?」
「それも難しいと思うけど、まあ、そうなっちゃうかな?」
「え、と?」
「ほら、登録と宿代で一度借りる制度使っちゃっているから、あの制度を何度も使うのはあまりよろしくないというか、人によってはブラックリストに乗っちゃうというか……」
「あー、まあ評判的に良くないですよね?」
「評判っていう言い方で言うと、スタートがマイナスみたいな状態で更にってなるからマイナスにマイナスを掛ける感じ?いや、それだとプラスになっちゃいそうだけど現実的にはマイナスが加算されるだけだからねぇ……これはまあ特殊な方法でどうにかするしかないかなぁ」
「特殊な方法?」
「おっ?聞いちゃう?」
気になるのですが、あまり聞きたくないような気もするので出来れば知りたくない話のはずですが、聞かないわけにもいかず。
「とりあえず帰ってからゆっくり話そうか?コレ以上変な事、今日は無いと思うけどまだここは安全な場所でもないからね」
苦笑いをしながらそんな事を言ってくれたのはカップルの男性の方。
そして先程からずっと何も言わないカップルの女性の方はと言うと、何かを必死にこらえているような状態に見えます。
「あの、どうかしましたか?」
「い、いえ、その……」
何かとても言い辛そうな顔でこちらを見て来るのですが、どうやら無理だったみたいで。
「もう、無理」
そう言うと同時にプッと口から声というか音が漏れるような音の後、大きな声で笑い始めます。
それに驚いたのは相方の男性とレベッカさん。
そして、少し経つと笑いというのは伝染するみたいで、レベッカさんがつられて、そしてそれは男性の方にも。最終的には自分も笑う事になるのですが、仕方ないじゃないですか。
「だって、だって、ぷるぷるよ?いい大人が腰を痛そうにしてぷるぷるぷるぷる。それによっぽどお腹が柔らかいのね?お腹もたぷんたぷんって、変な動きなのよ?」
いや、自分のお腹をそこまで変、変と言われるとちょっと自分としては微妙な顔をせざるを得ないのですが、ひとしきり笑っているうちにどうやら腰の痛みはおさまったみたいです。
今日はここまでで、明日も同じぐらい……かな?




