【500文字小説企画】タンポポ
しいな ここみ様主催、500文字小説企画参加作品です。
イーペーコーは置鮎一平の高校のときのあだ名である。一平とは誰も呼ばなかった。まして置鮎くんなどとは。
イーペーコーも平気なものだった。周り以上に彼もそれほど頭の出来が良く無かった。高校は名前さえ書ければ入れると言われる底辺だったが、彼は入試で自分の名前を「あきおゆ一米」と書いたという、後々まで語り継がれる伝説の男だった。
高校を中退した彼は食品加工の工場で働いた。ラインで流れてくる刺身にタンポポを乗せる仕事だった。
彼にはタンポポという新しいあだ名がついた。仕事だけでなく悪い先輩にくっついて盛り場をふわふわと歩くのもその理由だった。
酒に溺れパチンコを覚えた彼の手元には当然ながら給料は残らなかった。さらに残念な頭の彼は騙されてゴッホの弟子が描いたというタンポポの絵を買わされ、借金まみれになった。
街から消えた数年後、彼は手錠をかけられた姿で朝のニュースに登場した。闇バイトの捨て駒にされ、強盗傷害の罪で実刑を受けた。裁判では涙を浮かべ「最初からやり直したい」と反省を述べた。
しかしてその言葉は叶えられる。刑務所の労働で彼に与えられたのは、刺身に乗せるタンポポをビニールハウスで育てる仕事だったからだ。