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本の虫はお話する

慌てて保健室を飛び出した後はあっという間にお昼になった。なんでかって?そりゃあ、国語の授業で眠かったから...。そうなれば寝てしまうのが人間ってものよ。え?普通は寝ない?.....まぁいいじゃない。たまには


「やぁ、三木谷くん。先ほどは随分と気持ちよさそうに寝ていたね」


そう言って声をかけてきたのは俺の数少ない友人の遠藤茜だ。成績優秀、容姿端麗、そして運動神経も良いと来た。うん、一見完璧美少女に見えるがこいつには決定的な弱点がある。それは....


「あのまま寝て置けばどこか空き教室に拉致して...」


「あーもう分かった分かった。物騒なこと言うな」

そう過度な変態的思考回路の持ち主なのだ。これがかなり厄介で日常会話ですらままならない場合がある。


「なんでだい、三木谷くん。私とxxxしたくないのかい?こんなに美少女なのに?」


「う、お前なぁ....卵焼きやるから黙ってろ」


平然ととんでもないこと言う茜に卵焼きを差し出す。今日は卵焼きがかなりうまく焼けた。自信作である。


「えっ、ついに私たち間接キスを...」


「なわけあるか、手を出せほら」


「やっぱりか、面白くない」


「じゃ、あげない」

俺は卵焼きを自分のくちにいれる。うん。やはり今日はやっぱり良い出来だ


「あー!私の卵焼きが....」


「いや、お前のではないぞ」


「やれやれ、残念だよ。三木谷くん...」


その後、手を軽くふり遠藤は「授業中は寝ないように」とだけ言い残し自分の席へと戻っていく。


嵐のような友人に相変わらずだなと思いながら今日の弁当を噛みしめる。やはり俺は料理センスがあるかもしれない。自画自賛を繰り返したあと、話をしにいく白糸の席に目をやる。まだ座っているところを見たことがない。使ってくれる主人がいない椅子と机はすこしさみしそうに見えた。弁当を食べ終えたので保健室へ向かおうと俺は席を立つ。はやくいかなきゃ姉にどつかれる....。


「失礼します」

さっき来た時と同じように保健室のドアを開ける。なんだか、お昼休みにくる保健室は新鮮だった。


「やっと来たか、話はつけてあるから」


「へいへい」


俺はおそるおそるベッドの方に向かう。なにを身構えているのか自分でも分からないが、かすかに緊張しているのが自分でも分かった。


「こんにちは、さっきはごめんな」


俺が挨拶をして、ベッドの横に置いてある椅子に座る。するとベッドにかけてあるカーテンがゆっくりと開く。ゴクリ...一体「保健室の本の虫」はどんな容姿をしているんだ.....?


「こ、こんにちは....」


えっ...想像していた姿とのギャップで思考がショートする。白と金が織り混ざった色、日本人ではとてもありえないような髪色だった。繊細に編み込まれた着物のような美しいその色味に言葉を失ってしまう。


「えっと....」


まじまじと見ていたせいか、白糸が照れくさそうにこっちを見る。なんだこの超絶美少女、こんなんアニメでしか見ないぞ。しかしこのまま見ていれば紳士(自称)の名が廃る....俺は視界を逸らし話を振った。


「いや、イメージとかなり違って...」


「イメージ?どんな容姿を想像していたの?」


「えっと、言いづらいんだけど眼鏡かけてクラスのすみっこにいるような暗い印象の女の子」


「....あながち間違いじゃないんじゃ」


「鏡見てこい」


「えぇ...?私は可愛くないし...暗いし...」


「まぁ、イメージの話はいいんだよ」


白糸がネガティブな考えに入りそうなため話題を変えることにした。しかしいきなり女子と話せと言われても話題がない。何を話そうか悩んでいるとき目に入った本を手に取る。


「本好きなんだな、あっこの作品知ってるぞ」

「えっ....!」

そう言った瞬間、白糸の目つきが変わる。期待で目を輝かせる姿はまるで子どもみたいで可愛く思えた。


「この作品、最初は内容が重たいしヒロインとのすれ違いも多くて....」


「そう、そうなんです!最初は大丈夫かなって私も思っていました!」


「そうそう、それで後半に主人公の一言で距離が縮まって一気に面白くなるんだよな」


「はい!なので最初しか読まずに読むのをやめてしまう方が多いので残念に思います...」


「そうだな、最後まで読まきゃこの本の面白さは分からないよな」


「はい!えっと、三木谷さん...は」


そう言うとなぜか白糸は恥ずかしそうにもじもじしだした。....なんだ、なにか言いたいのか?


「どうした?なんか言いたいことがあるのか?」


「い、いや三木谷さんだと先生とも被ってしまうので名前で....その....よ、呼んでも...」


頭から湯気が見えそうなぐらい顔を真っ赤にしてそんなことを聞いてくる。....可愛い


「ああ、もちろん大丈夫、遥斗って呼んでくれ」


「うっ...では遥斗くん....」


「お、おう...それでどうした?」


「遥斗くんは、本が好きですか?」


「好きだな。どのジャンルも良く読むぞ」


そういうと白糸はものすごく嬉しそうな顔をしてこっちに顔をずいっと近づけてくる。ち、近い....


「で、ではこの中から読んだことのない本はありますか...!?興味あれば読んでほしくて...」


興奮気味に本を渡してくる。読んだことある本がチラホラあるが、もちろん読んだことのない本もある。

ジャンルは様々だった。だが、恋愛物が多く感じるので女の子だなと思い、笑みがこぼれる。


「はは、ホントに本が好きなんだな」


「うっ....はい」


目を見開き、今日何度目かもわからないゆでダコ状態になる。すこしからかってやりたいぐらいだが、嫌われても嫌なので、読んだことのないそして、気になった本を指差す。


「......!」


すると、白糸は驚いたような顔して、そして照れくさそうに喋りだした。


「シリーズ物なので、すこし長いですが私が一番好きな作品です...。ぜひ読んでみてください」


白糸はおそるおそると言ったようすで本を差し出す。

それを受け取った俺は、おおまかなあらすじを確認する。....恋愛小説らしい。恋愛小説は久しぶりだがせっかくだししっかり読もう。


「おう。明日また読んだところまで感想言うよ」


「あ、明日....ぅう..」


そう言ってまた白糸は俯いてしまった。...もしかして明日は都合が悪いのか?


「あ、そうだ。明日じゃなくても大丈夫だぞ。また話に来るし」


俺は慌てて訂正する。すこししか話をしていないが楽しいと感じる時間だったので、明日に期待してしまった自分が居た。恥ずかしい


「い、いえ!!明日も来てください!」


すると急に白糸がガバっと身を乗り出し、そう言った。忙しいやつだな...。でも嫌がってはないらしい、それはとても嬉しかった。


「お、おう。じゃあ、また明日な」


昼休みの時間ももうすぐ終わる、なので俺は教室に戻る準備を始めた。


「...明日楽しみにしてます」


耳元でそう囁かれて、思わず心臓が飛び跳ねる。心臓がバクバクと弾むなか、白糸は照れくさそうに笑っていた。俺は逃げるように、ベッドスペースから飛び出した。きゅ、急になんだなんだ一体.....!?

...そうして、俺と白糸の保健室での交流が始まった。

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