ディアレクティケとエリスティケ
「マウントとか上から目線なんて言うけどさ」
メシヤが口火を切った。
「聞こうじゃないか」
イエスはメシヤの良き理解者である。
「論破することが目的じゃ無いと思うんだよね」
「それはそうだな」
「相手を言いくるめても何も生まれないしさ。恨みは買うだろうけど」
「議論は真理を発見するためにするものだな。相手より優位に立つためじゃない」
メシヤとイエスの会話はよく噛み合う。
「そう考えると、日本にディベートが根付かなかったのは頷けるね」
「ああ。あれは無理くりどちらかの立場にたって批判の応酬をするものだからな」
「こいつに言っても仕方が無い、なんてことを言う人もいる」
「余計な一言だよな。自分が黙っていればいいだけの話だ」
「たださ、こういうのはプライベートな範囲ならいいんだろうけど、政治やビジネスの世界では当てはまらないのかな、なんて考えてる」
「お前らしくないな。そんなことは無いぞ」
メシヤはネットやテレビで繰り広げられる小競り合いに嫌気が差していた。
「へえ、イエスはもっとドライに考えてるのかと思ったよ」
「たとえばだな、自分のところに仕事が来るように競合相手を悪く言う手合いがいるが、それを聞かされる客はあまり気分のいいものじゃないよな。そこの会社の商品も検討していたわけだし」
うんうんと頷くメシヤ。
「悪口を聞かされる方が不安になるのは、『この人は私がいないところでもきっと同じように私の悪口を言いそうだな』と連想してしまうからだろう」
「思い当たる節だらけだよ」
メシヤが深く息を吐く。
「欠点を言いつつも利点をあげるのなら、お互いにとって建設的だな」
「うんうん。党首討論なんかでは、欠点しか言わないよね。自分の党が政権を取りたいからと言って、あれは正直聞き苦しい」
所属する党によって発言内容も拘束されてしまうのが、政党政治の限界かも知れない。
「鷹山さんは違うけどな。コンビニの店員さんとも仲良く喋ってるよ。会う人会う人がファンになる」
「鷹山さんなら日本も安泰だね!」