聖なる、聖なる、聖なる万軍の主
「メシヤ、サッカーの部活動はどうしたのよ」
マリアがふと声を掛ける。
「しばらく休んでたけど、やっぱりボールを追いかけたくなるね」
メシヤは北伊勢高校のサッカー部、イエスは野球部の所属だ。
「メシヤさま、ここ数ヶ月の出来事でおからだも逞しくなられましたし、さらなる脚前を上げたのではありませんか?」
レマがおだてる。
「脚も速くなってるもんネ!」
エリはこう言うが、彼女も風のように高速で走る。
「う~ん、どうだろう? 今度試合があるからやりたいこと試してみるよ」
相手にスキを突かれないよう、余裕を見せないでおく、という余裕がメシヤにはあった。
メシヤはサッカーグラウンドの片面を18分割して戦略を練る。
※詳しくは『ハラッパーの真ん中で』第28話 スモールユニバース 参照
サッカーは文句なしに、世界最大の人気スポーツである。ボールひとつあれば誰でも気軽に参加出来るし、次に何をするかという選択肢が星の数ほどある。非常にクリエイティブな競技である。
喧嘩をしていた他クラスの生徒とも、一緒にボールを蹴ってプレーすれば、いつの間にか怒っていたことも忘れてしまう。サッカーにはそんな爽やかな効能がある。
ワールドカップという世界の祭典では、いがみあっている国同士でも、平和へのロングパスを繋げられる。
メシヤは野球も大好きだが、サッカーにしかないこのあたりの熱気と、世界が一体になる感覚に、どこか酔い痴れている部分がある。
北伊勢高校サッカー部のユニフォームは、4種類あった。赤色の弐号着、紫色の初号着、黄色の零号着、青色の零号着・改である。
メシヤは以前から、日本代表のユニフォームは、赤・白・金の3色をあしらったデザインこそが相応しいと思っていた。サブユニフォームは古来より高貴とされている紫が良いのではとの思いをあたためている。ただ、現日本代表のトリコロールは正義のヒーロー感があり、昨年のワールドカップ大躍進もあってか、レプリカを購入したほどである。どことなく、ガンダムっぽさがある。
三重県下では、強豪の四日市大央工業が君臨していた。ところが冬の高校サッカー選手権予選大会では、その古豪をあっけなくくだしてしまったのだ。