燃えるべく運命づけられた流星
みそぎ滝は北伊勢市の北東部にある。標高400メートルほどの多努山のふもとに位置している。
「なんでみそぎ滝に?」
マリアの言葉を尻目にメシヤは滝壺へと歩を進めた。そして、左側のインサイドパンツホルスターに挿していた銀の柄を右手で抜いた。自宅兼食堂でのさきほどの一件でなにか思うところがあったのか、左右に差していた柄を反対に入れ替えていた。当初は銀の柄が右腰、金の柄が左腰だったが、今はその逆だ。
「まあ、見てなって」
メシヤが銀の柄を瀑布に当てようとしたが、あまりの水圧で一瞬身を引く形になった。滝の頂上からメシヤが退いたポイントの斜辺距離を、サイクロイド曲線を描く形で水流が変化した。
「こんなことっテ・・・!」
信じられないという表情でエリが見つめる。
水流のエネルギーがそのまま剣の攻撃力へと変換された。吸収された分、滝の勢いは止まってしまった。柄に巨大な刀身が据え付けられる前は偃月刀のような形だったが、馴染むと角張った剣に落ち着いた。その迫力は水流ではなく、水龍だった。
パチパチパチパチ
「お見事です」
拍手をして木陰から近づいてきたのは、メシヤの見覚えのある男だった。
「あっ、同じクラスの・・・ナポくん?」
マリアはクラスの全生徒を把握している。
「ナボです。フルネームで呼ぶときは奈保レオン(ナポレオン)と読みます。名字だけならナボです。ナポだと少々間抜けですし、ナボレオンも言いにくいので、このような読み法則になりました。じっさい言葉には、表記してある文字とは違う読み方をするということはよくあることなのです」
ナボは背も低めで小太りなのだが、歴史に異常に詳しく数学も得意としている。マリアの見立てでは、能ある獅子が牙を隠しているように思われた。その感想はメシヤも同じく抱いていた。
「なんでここが?」
メシヤはハテと聞いた。
「私もその剣の柄を見ました。朝の教室でね。で、おそらくメシヤくんはここに来るだろうと待っていた訳です」
ナボはさらに続ける。
「古文書でその剣の記述を見たことがあります。いま、みなさんがご覧になったようなことも書かれていました」
ナボが何者なのか分からないまま、一同は耳を傾ける。
「その古文書はどこに?」
メシヤが珍しく大真面目に聞くと、ナボは丁重に答えた。
「残念ながら、もう存在しません。なにせ最後に読んだのは2300年も前のことですから」