王冠を守る人達
聖都・エルサレム。
ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖地にして、古代イスラエルの王・ダビデが君臨した約束の大地。メシヤたちが到達するのはあとわずかだ。
新聞を広げて熟読しているイエス。
いまどき新聞なんて、という読者の声が聞こえて来そうだが、スマホやタブレットで新聞の総文字数を読もうと思うと、クリックとスクロールが思いのほか煩雑になる。
ネットの優位性はあくまで通信という点において語られるべきものであって、個々のメディアの使い勝手・楽しみ方に最良なのは、案外原始的な方法だったりする。また、ネットだから便利という事柄と、記事の質とはあまり関連性が無い。
「プロミネンス患者、欧州で減少傾向か」
イエスがぼそっとつぶやく。
「へ~、それは良かった! なんとも痛ましいニュースが続いていたからね」
メシヤが我がことのように胸をなで下ろす。
イエスの隣に座るレマが記事を覗くと、感染症にかかりにくい生活習慣という見出しが目に入った。
「きれい好きなのは日本人もユダヤ人も共通していますわね」
レマが納得する。
「うんうン、お風呂に入らずに布団に入るなんて考えられないヨ!」
エリが両手で自分を抱きしめ、嫌悪感を示す。
「いったいなんの関係があるのか、っていうことが大事だったりするんだろうね。目に付いたその辺のゴミを拾うとかさ」
メシヤも続く。
「そうそう、それと靴を脱ぐ文化がこの際広まるんじゃないかしら? 衛生的に靴のままで家に入り込むのは、外からの菌を中に持ち込んじゃうってことだし」
マリアが優等生のようなコメントをする。
「そうすると、世界の建築様式も変わってくるかもな。靴を玄関で脱ぐのに合わせてな」
イエスは実家の仕事柄、建築が専門だ。
「日本は水資源が豊富なことト、なんといっても温泉がたくさんあるからネ!」
エリが温泉に浸かって「いい湯だや♪」と言ったかは不明だ。
「でも、メシヤさまもおカラダが健康そのものですわ。お風邪もひかないですし」
レマが感心する。
「馬鹿は風邪引かないって言うけど、プロミネンスウイルスもこいつを宿主にしたくないんだわ、きっと」
「あいかわらずきついなあ、マリアは」
車内がにこやかな空気でつつまれた。これもまた、ウイルスを遠ざける秘訣なのだろう。