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モー民谷

「キミ、名前は?」

「メシヤ。藤原メシヤ」

「あたしは、安倍マリア」

 狐につままれたような狸顔のマリア。自分の境遇をいま知ったはずなのに、この少年は意に介せず、自然としている。


「あっ、もうそろそろ教室に行かなきゃ。みんな集まってると思うよ」

「あたしは三組だけど、あんたは?」

「僕も三組だよ。昨日の入学式で、後ろの列から目立つ子がいるなあって眺めてたんだよ」

さっきまでけんのある顔つきだったマリアだが、ほんのり刺々《とげとげ》しさが薄れた。


「聞かないのね」

「なんのこと?」

「さっきアイツが言ってたでしょ。あたしの住んでた地区の話」

「僕も軽はずみなことは言えないし、慎重に言葉を選んで話さないといけないと思う。でも、Z地区出身の大物政治家や有名芸能人も沢山いるよね。もちろん多くの人は名も知られていない一般人だけど、反骨精神みたいなものがあるんじゃないかな」

 一見、風変わりではあるが、どこにでもいる少年だと思っていたマリアは、メシヤがここまで考えていることに驚かされた。


「それにさ」

「うん」

「古代ユダヤ人が日本に渡ってきて、その血統を守るために、Z地区で固まって暮らし始めた。なんて話があるよ」

「はあ?」

 急にオカルトチックな話に変わって、メシヤの奇人変人ぶりに確信を持ったマリア。まだ何かを話そうとするメシヤを制する。


「ちょっと待ちなさいよ。あんた、その情報源はどこよ? ネットでもそんなの出てこないわよ」

「ええとね。ちょっと待ってよ」

角張ったリュックからなにやら取り出すメシヤ。手垢がついて何度も読み直した形跡のある雑誌だった。

「あー・・・」

 その雑誌タイトルを見て、肩の力が抜けるマリア。『月刊モー。臨時特別号』だった。

1999年の文字が見える。


「手に入れるの、大変だったんだよ。バックナンバーも残っていないからね」

「まさか、というか、案の定モー民だったのね」

「安倍さんもそうなの?」

「よしてよ、安倍さんなんて。マリアでいいわ」

「うん、分かったよ、マリア」

「あたしはさ、オカルトなんて半信半疑だったんだけど、いまの話は信じてもいいわ」

「うん、そのほうがいいよ。『モー。』を読んでると、ロマンチックが止まらないよ」

「あたしは『モー。』は結構。あのジャンルは頭が痛くなってくるから」


 話の尽きないメシヤとマリア。一方、1年3組の教室では。

「おーい。藤原メシヤと安倍マリアは、入学早々欠席かー?」

 担任の野太い声が、物静かな教室にこだました。






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