メシヤの受難
「先生。メシヤくん、まだ眠らずにずっと起きています」
児童精神科の病棟で、メシヤ担当の看護師が主治医に訴えかけている。
「過集中で神経が興奮しているな」
「このままではメシヤくんの体が壊れてしまいます」
「分かった。私が直接話をしよう」
「お願いします」
「メシヤくん」
「はい、呉塀先生」
「眠れないのかい?」
「うん、寝るのがもったいなくて。やりたいこといっぱいあるから」
「このあいだ処方したお薬はどうだったかな?」
「先生。あれを飲むと、すごく気分が悪くなるんです。だから・・・飲んでません」
「それはいけないな。メシヤくん。無理にでも寝ないと、大きな病気になってしまうかも知
れないよ」
「人間は8時間も9時間も寝なくて大丈夫ですよ。
エジソンは『死んでからたっぷり眠ればいい』と言っていましたし」
困惑の表情を浮かべる呉塀。
「子供のうちはたっぷり寝ないと、身長が止まってしまうよ。それでもいいのかい?」
「それは・・・嫌ですけど・・・、でも眠くならないから・・・」
「なら、これを飲むんだ」
呉塀は睡眠薬二錠を右掌に乗せ、メシヤに突き出した。
「嫌だ!」
「メシヤくん、おとなしくしなさい!」
「それを飲むくらいなら、僕はここから出て行きます! こんなとこ、もういたくないんだ!」
「駄目だ。いまの状態のキミを出すわけにはいかない」
呉塀が後ろに立っていた屈強な躯体の看護師に小声で話しかける。
「あまり気は進まないが、強めの鎮静剤を打っておこう」
ものの数秒で5~6人の男たちがメシヤの病室に詰めかけた。暴れるメシヤを押さえつける無慈悲な男たち。子供にも容赦は無い。為す術も無くメシヤは制圧された。