レイトブルーマー(遅咲き)
未来党の一連のマニフェストを受け、風向きが変わった。鷹山のお膝元、北伊勢市の目まぐるしい発展が内外から注目され、未来党支持率は高まっていった。今年は総選挙が控えている。江馬総理たちをはじめ、保守党の重鎮たちの顔色がみるみる青ざめていった。
「これもメシヤくんのおかげだな」
鷹山は若い改革者に感謝の念を抱いていた。
「彼のポテンシャルは計り知れない」
あの鷹山にそこまで言わしめたのが、まだ15歳の少年だったのだ。
鷹山の元に、未来党から立候補しようという新人が、今日も面談に来ている。地方公共団体の首長も、連日、鷹山を訪ねてやって来る。話すテーマは、「どのようにあそこまで上手く都市計画を成功させたのか」であった。
「衣食住足りて礼節を知る」
この言葉が物語るように、住宅環境が整備されると、人々にあたたかさ・やすらぎが生まれるようになる。近年では希望を持てない若者が増え、働けず家に閉じこもりがちな者も多かった。
これらの問題も徐々に改善され、職を持たなかった若者にも勤労意欲が芽生え、額に汗をかく仕事に就くようになった。
心の病を患った人々も、未来党に自分の“未来”を見出した。心無い言葉で傷つけられた自分たちにも、彼らは優しかった。未来への希望が、自分を外の世界へと踏み出す勇気を与えてくれる。そんな、はるか昔に忘れ去っていた感情を、未来党は思い出させてくれたのだ。
真夏の選挙戦。有権者は街頭演説に耳を傾け、いままで感心の薄かった若者世代の中にも、初めて選挙権を行使しようとする者もあらわれた。
鷹山が意外だったことがある。選挙間際になると、いままでは野党の不祥事やネガティブな報道がクローズアップされ、妨害工作が起きていた。だが、今回はそれがおとなしくなっていたのだ。
保守党の面々も精彩を欠き、余裕の無さがうかがえた。
――そして公示日から13日後の選挙期日―――。
未来党は過半数の議席を獲得し、政権与党の座を掌中に収めたのだった。
鷹山巌一郎は、晴れて第99代内閣総理大臣に任命された。鷹山の取り組んだ政務は大小津々浦々に及んだが、その中に公職選挙法の改正というものがあった。
ボウスハイト・ロックフォーゲルに感化された鷹山は、政界の若返りを図りたいと願うようになった。日本国民にも15歳から(中学卒業から)被選挙権を与えてもなんら不都合は無いだろうと判断したのだ。
鷹山はこのことを、すでに会談を終えたロックフォーゲル当人から強く懇願されていた。鷹山の腹づもりは、ロックフォーゲルと同じだった。
――日本の“未来”を担う救世主――。
「彼しかいない」
鷹山のその思いは日に日に強くなっていた。
「私は、つなぎ役に過ぎない」
後継者が見つかり、安堵の表情を浮かべる鷹山。自分はいずれ勇退すると決めているのに、晴れやかな微笑だ。
「さあて、どんな時代がやってくるかな」
ウェイトトレーニングのバタフライポーズを取ると、気合い十分に官邸へと進んでいった。