海道の名城
「調子はどうだ? イエス」
「はい、順調です。父上のCADを使わせてもらいましたので、上手くいきました」
「うむ。ただ、最初の構想がなければCADも使いようがない。その点、お前たちはエスキスからよく練られていた」
「ええ。私たちのミニチュアは、それぞれ下敷きとなった“お手本”がありますからね。あとはそれに自分たちの“色”を加えて“改築”していっただけです」
「お前の設計する図面の数々は、一般の住宅レベルは疾うに超えているからな。鷹山さんも興味津々にしていたぞ」
「そもそも、北伊勢高校の技術課題に建築模型の作成があるのは、鷹山さんの意向が多分に影響していますからね」
「おっと、そうだった。しかし考えることが違うな、鷹山さんは」
「そうですね。東海地方の生徒たちが作成したミニチュアで、評価の高かったモノは実際の
建築物に採用していくということでしたね」
「ふむ。何十年も前からこの建築模型の課題は出されていたが、その模型を元に本物を建築するというアナウンスをしたのは、つい最近のことだな」
「その話は、まだ生徒たちには知られていないですけどね」
なにやら思い出し笑いを浮かべるイエス。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。その施工も我が十九川工務店が一手に引き請けるとなると、職人の遣り繰りも忙しくなってきますね」
「違いないな。お前にも手伝ってもらわなければならなくなるだろう」
「喜んで勤めさせていただきます」
目線をナゴブロックに移す広忠。
「よく図面が残っていたな。ワシも子供の頃に、模型を博物館で見かけた記憶はあるのだが」
「現存する文献の記録を元に、ほとんど想像で補っています。本丸・二之丸・三之丸とあったようですね。“海道の名城”と称されたのだとか」
「よく調べているな。しかし、このナゴブロックという玩具だが、ウチの設計ミニチュアにも使えそうだぞ」
「はい、それは私も考えておりました。実際の建築もこのように手軽に出来るといいのですが」
「接合の点で、嵌め込むだけという訳にはいかんが、資材の位置決めの点では十分応用できそうだ。いまだに手尺で済ませているような職人もいるから、仕上がりがまばらだったりする」
「それは問題ですね」
「うむ。ところで、お前はさっき手軽と言ったが」
「はい」
黙々とブロックを積み上げるイエス。
「根気のいる作業だぞ、これは」
こめかみから一筋の汗が流れる広忠。
「ですね。ただ、設計図が出来ていれば、あとはその通りに組み上げるだけですから。図面も何もなしで、考えながらブロックを積み上げていくのとは違いますし」
「何ピースあるんだ?」
「ざっと1万8000ピースですね」
「ははは・・・。まあ、無理をせずにな」
「御意です」
書院造りの十九川家本宅。イエスが作業する離れの自室は、朝の光が射すまで明かりが灯っていた。