来た、見た、買った!
三重県下にはシオンショッピングモールが点在している。創業者・鷹山宗一郎のお膝元でもあるからだ。北伊勢高校近くにもシオン北伊勢があり、夕方には学生服姿も多く見られる。市内最大のショッピングエリアであり、老若男女で賑わう。シオンは三重の台所だ。
北伊勢シオン内に、間宮模型という店がある。模型店と言うと、車やロボットのプラモデルばかりを扱っている店を連想するが、この店は建築模型材料も販売している。メシヤたちはここへ技術課題の材料を買いに来ていた。
「お~、メシヤくんにイエスくん。それにマリアちゃんまでいらっしゃい! そちらのお二人は初めてかな? 今日は大勢で来てくれたね」
店主の間宮械造が出迎える。整理整頓された模型・各パーツが、天井まである棚のすべてを埋め尽くしている。
「うワ~、パラダイスだネ!」
エリの好きな日本発ロボットアニメのプラモデルが、ショーケースに飾られている。新しいものだけでなく、昭和の古めかしいロボも鎮座していた。
「械造さん、今日は建築模型を見に来たんです」
「まいどあり! OK じゃあスチレンボードだね」
「いえ、今回はナゴブロックを使おうと思ってます」
「ああ、それじゃ残材が出ないように、積算しないとね」
ゴミ減量が叫ばれる中、まだ使える資材を捨てているようでは後ろめたい。おもちゃでも同じことだ。
メシヤたちはナゴブロックビルダーというアプリで、各色ブロックの必要数を割り出してもらう腹積もりだ。このアプリは、ナゴブロック社の定型の図面をベースにブロック数をはじき出すためのものなのだが、メシヤたちの作る模型は自作の図面を使うので、桁行方向、梁間方向などの寸法を正確に打ち込まなければいけない。そもそも、このアプリに入力するための元の設計図がしっかり完成していないと駄目なのだが、そこは十九川工務店の協力もあり、一級建築士顔負けの図面が出来上がっていた。
「うわ、今回はいままで以上に気合いが入ってるね」
「とりあえず、4件分お願いします」
「ほい、わかった。学校の机のサイズがW60cm✕D40cmだから、それにギリギリ収まるサイズにしておくね」
「はい、それだけあれば十分です」
図面を見てにんまりする間宮。
「メシヤくんのは、これだね?」
ワシリイ大聖堂風の屋根が描かれた図面を手に横目で聞く店主。
「はい、ナゴブロックでいけますかね?」
「ナゴブロックでアールを表現することも可能は可能だよ。すごく手間はかかるけどね」
「はい、望むところです」
にっこりする設計主。
「で、こっちのお城がイエスくんかな?」
「そうです。桑名城の現存している設計図を元にアレンジを加えました」
「うん、いいねえいいねえ。ぜひこれをそのまま宮華公園に復元してもらって、北伊勢市の町おこしにしてもらいたいねえ」
その発言を聞いてメシヤとイエスは背筋が伸び、遅れて口元が緩んだ。
「それからこのメルヘンチックなのがマリアちゃん?」
マリアは乗り物が好きで、この模型店にもちょくちょく顔を出している。いまどきの若い女の子はスポーツカーを毛嫌いするが、マリアは真逆でバブリーな車愛好家である。
「はい! インナーガレージも作りました! ブルボン朝とモータリゼーションの融合がテーマです!」
目をきらきらさせるマリア。メシヤの熱中度を警戒するマリアだが、全然人のことは言えない。
「ナゴブロックで車も作れるからぜひやってみるといいよ」
「白いフェラーリにしますね!」
「まあ。メシヤ様が運転したら、白馬に乗った王子様ですわ」
思ったままを言うレマ。
「冗談はよしてね、レマちゃん。こいつの場合は馬と鹿の二頭立てだわ」
「えらい言われようだなあ。でも、マリアの家も豪華絢爛だし、楽しみにしてるよ」
「ふん、あんたのも相当難しそうだけど、最後までちゃんとやり遂げなさいよ」
「了解。細工は流々《りゅうりゅう》、仕上げを御覧じろさ」
ナゴブロックのテーマパークが、中部エリアに出来たばかりであった。あたらしモノ好きのメシヤも早々と訪れ、その魅力に感染された。ナゴブロックは、もともと建築物をおもちゃで作るというコンセプトで開発された。それゆえ、今回の課題にはおあつらえ向きだったのだ。
メシヤが曲線部分をナゴブロックで表現できるか不安がっていたが、ナゴブロックは1マスだけの単ブロックから、カーブ状のRパーツ、柱に使うポールパーツ、植物に使えるラバーパーツ、ガラス窓に使えるクリアパーツなどと多彩に取りそろえている。
ただ、メシヤがやろうとしているワシリイ大聖堂はドーム状なので、それは地道に平パーツを積んでいくしかない。
世界にある各種代表的な建築物のナゴブロック設計図というのは、すでにある。複雑そうに見えるファサードも、ある程度の決まったブロックの積み手順というものがあるのだ。メシヤたちはそれを踏まえて、自分たちの考案した家を建築しようという算段だ。時間もかかるが、根気が無いと続かない。雑な性格よりも几帳面なほうが向いているのは、言うまでもない。