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夢に破れる人のかけらが

 五大所山は三重と滋賀の県境に位置する。ロッククライマーがトレーニングに訪れる山で、頂上付近のレストランではジビエ肉を味わえる。ロープウェイで登ることもでき、多くの人で賑わう。冬はスキーも楽しめ、観光客たちは麓の温泉街で泊まっていく。三重の中心都市・四日市市内から国道一本で行けることもあり、アクセスが容易だ。いわゆるトカイナカなエリアである。


 時牢岩へ行くにはロープウェイだと通り過ぎてしまうポジションにあるので、メシヤは登山口からスタートした。今回の同行者は、メシスタントのマナと裁紅谷姉妹だった。マナだけ連れて行くつもりだったのだが、エリとレマにどうしてもついて行きたいと懇願され、断る理由もなかったのでOKした。


 エリとレマは、基礎的な運動能力が高い。普段は控えめにしているのか、頭もかなり切れる。見た目の可愛らしさで油断していると、一杯食わされるだろう。わざわざ日本まで来るイスラエルからの留学生。なにか密命を帯びているのかと推量したが、メシヤは深く立ち入らなかった。


 

「お兄ちゃん、はや~い」

「すまんすまん、お前のペースに合わせるよ」

 体が小さくなり、歩幅も減ってしまったマナ。脚力はある妹なのだが。


「メシヤ、キミには妹ちゃんがもう一人いたノ?」

「メシヤさま。さきほどから考えていたのですが、そちらはどなた様ですか?」

 聖杯の恩恵と犠牲のことを、裁紅谷姉妹は知らない。


「ああそうだったな。こいつはマナだよ」

「「エエ~!?」」

 眉尻をさげて、軽く会釈するマナ。


「妹ちゃン、ちっちゃくなっちゃっタ!」

「以前はわたくしたちよりも背がお高くあられたのに、今は反対になってしまいましたわ」

「ワタシが148cmだけど、マナは140もなさそうだネ」

「これは一体どうしたのですか? マナさま」

「ノーフリーランチだよ」

 メシヤが代わりに答えた。

 

 あの一件から、実はマナの身長も数cm回復していたのだが、めし屋フジワラの台所事情もあり、追加で食材を“発注”していた。身長が伸びたらその分だけ聖杯をあてにする。そんなことを繰り返していた。


 マナはもう少しだけでも身長が欲しかったようだが、メシヤに小さい方が可愛いじゃないかとたぶらかされ、今の身長に落ち着いている。

 事情を裁紅谷姉妹に説明すると、マナの聖杯の力に興味を持ったようだ。特に、余計な脂肪分と食材を交換できる特性に着目した。


「しかモ、幼くなってるヨ!」

「脂肪と引き替えに若さを手に入れられるのなら、この世の女から悩みはなくなりますわ!」

「まだこいつも使い方がよく分かってないから、可能性はあるなあ。何かと交換取引になるのは確かなんだけど」



 エリがふと視線を移すと、可憐な高山植物に気づいた。

「ワ~、地上では見かけない花だネ!」

「そう、これが山登りの醍醐味だな。雲もつかめるぜ」

(あなたは虹をつかむ男ですわ、メシヤさま)

 レマのメシヤへの信頼は揺るぎない。


「ちょっと、花を摘んでくる」

「だめだヨ! そのままにしとかないト!」

「エリさん、たぶんトイレのことです・・・」

 マナが隠語を補足する。


 岩壁に向かって三本目の剣を取り出すと、メシヤは的を射貫いた。

リラックスしたメシヤはレオンの言葉を思い出していた。


「聖剣の使い方はまだあるって言ってたなあ」

 メシヤは考える時、言葉ではなく映像を思い描く。なので、イメージの湧かない話は理解することが出来ない。不自由そうだが、このほうが記憶に留まりやすいと自己分析していた。

「でも、どうやって?」

 その答えが分からないまま、メシヤはマナたちのもとに戻り、時牢岩へと歩を進めた。


 

「はあはあはあ」


 メシヤ一行は息を乱しはじめていたが、目的の時牢岩が見えてくると、酸素ボンベを与えられたかのごとく、元気を取り戻した。その眼前に広がる光景は、値千金などという言葉が軽々しく感じられるほどだった。


「着いタ~!」

 エリが歓喜の声をあげた。

「ピテカントロプスになる日も、もう間近かな」

「お兄ちゃん本当に平成生まれ?」


 時牢岩は、重力を無視したような形状で、そこに鎮座していた。二本の柱状の岩が、丸い大きな石玉を持ち上げているのだ。いつからここにあるのか。多くの登山客が謎を抱いたが、その答えを導き出せる者はいなかった。

 メシヤはまじまじと眺め、調査を開始したが、何度見ても石は石だった。文字が刻まれている風でもない。

(レオンくん、どうすればいいんだい?)


 メシヤはマナの聖杯の時のように、臥龍剣と鳳雛剣を使うことを思いついた。あの時と同

じように水龍の梁をぶつけ、炎凰の柱を浴びせたのだが、コケや土がとれて化粧をほどこした程度で、特別どうという変化も起こらなかった。




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