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ハラッパーの真ん中で  作者: 三重野 創


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神都巡礼

 北伊勢高校一年生の一行は、遠足で南伊勢市に来ていた。おはらい町・おかげ横町で食べ歩き、神の宮へ向かった。メシヤは懐かしい心持ちがした。自分のいるべき場所のような、そんな感覚を覚えた。


「メシヤ、あいもかわらず物思いにふけっているわね」

「そういうマリアもクリスチャンなのに神社も参るんだね」

「別にいいじゃない。万教帰一よ。あんたから教わった言葉よ」

「ああ、そんな話したっけね。なかなか受け入れられないけど」

「素晴らしい考えだと思うわ」


「うん、どの宗教も根っこは同じだと思うんだ。それが枝分かれしちゃって争いが起きてるけどさ。特定の宗派に属しちゃうと別の他宗教は信じるなってなっちゃうけど、基本精神は人がよりよく生きるためってのは共通してる。だから僕はどの宗教にも入らないけど、どの宗教の言い分も受け入れたい」

「それができたら、世界から戦争がなくなりそうね」

「うん、僕の理想だね。世間の人付き合いもそうだと思うよ。自分は自分、他人は他人って割り切りすぎちゃうのは、僕は嫌だな」


「メシヤ~!」

 エリが駆け寄ってきた。

「これが日本の神都・南伊勢ネ!」

 学校行事ではいつもメシヤと行動を共にしている裁紅谷姉妹だが、遅れての合流だった。なにか用事があったらしい。


「エルサレムと比べてどうだい?」

「すごく綺麗に手入れしてあるネ! 木が生き生きして空気が厳かだヨ」

「お参りする方々もとても礼儀正しいですわ」

 レマも賞賛のコメントをする。


「海も山も川も野原もあるシ、こんな伝統的な名所もあれバ、工業都市もあル。食べ物は美味しいシ、人は優しいシ、私も三重県人になりたいネ!」

「三重県人として光栄だね。イスラエルはどんなとこ? 僕も行ってみたいなあ」

(あなたは、いずれそこへ訪れますわ。そう遠くない未来に)

 レマはしみじみと心の中でつぶやいた。


「イスラエルは神殿を作る計画が持ち上がってるんだヨ。アーロン・グッドシュミット首相が音頭をとってネ」

「へえ、アーロンさんがそこの玉座に座るのかな」

 キョトンとしてから苦笑いを浮かべる裁紅谷姉妹。

「さあそれは分からないネ」「さあそれは分からないですわ」



 奥の正殿へと向かうメシヤファミリー。敬虔な面持ちで、二礼二拍手一礼をする参拝者。

(本当は三礼三拍手一礼なんだけどな)

 メシヤはひとりごちた。

「みなさん、本当に折り目正しいですわ。生真面目な性格がうかがえます」

 レマがあたりを見回して感心する。


「無法者もいるがね」

 石段の反対側から、いや~な声が聞こえた。

「ま~た、ダニエルさんかあ」

 ダニエルが一瞬、裁紅谷姉妹に目をやる。視線がぶつかり、お互いすぐ目を逸らした。


「ダニエルさん、さすがにここで一悶着起こしたらまずいよ~」

「ほう、神罰でも起こるのか? だが、ダークロードさまならお許しくださるだろう」

「ダークロード?」


「メシヤ。この神の宮の神体を知っているか」

「八咫の鏡でしょ?」

「ほほう、気づいていたか。まあ、お前の性格ならそのままにしておくんだろうな」

 ダニエルは神前でも遠慮しない。


「我々も無理強いをしたい訳じゃなかった。賽銭をたんまりはずんだら地下の大宝物殿に通してくれたぞ」

「なんてやつ!」

 マリアが嫌悪感をあらわにした。


「だがな、そこには目当てのものはなかった」

「そらそうだよ。ダニエルさんも言ってたじゃん。宝は目立たないところに隠すって」

「南伊勢くんだりまで来て空振りか。アワビと松阪牛のステーキを食って帰るぜ」

「ご神体は移動させたって話を聞いたことがあるよ(レオン君が言ってたんだけど)」

「そうなのか? まあお前の後をつけてりゃ見つかりそうだな」

「おつとめご苦労様ですね」

「俺はこう見えても楽しんでやってるぜ。じゃあ近いうちにまたな」

 ダニエルたちは参拝もせずに引き返した。


「メシヤ、あいつちょっと変わった?」

 マリアが訊ねる。

「いいや、まだ何か企んでると思うよ」

「メシヤ~! 私も松阪牛のステーキ食べたいヨ! アワビはだめだけド」

「ああ、マナの今後の身長の伸び具合にかかってるよ」

「?」


 神をも恐れぬ男、ダニエル。次はどこで出会うのか。メシヤ一行は南伊勢をあとにし、北伊勢へと帰還した。







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