三重に偉大なる者
「レオンくん!」
メシヤが渡り廊下で威勢良く声を掛けた。
「おお、メシヤくん。お元気そうですね」
奈保はいつもの落ち着いた物腰だった。
「三種の神器の石板って知ってる?」
いきなりディープな話題を振るメシヤ。
「もちろんです。そこまで辿り着きましたか」
「さっすが、ウォーキングディクショナリーのレオンくんだね!」
「石板の場所を知りたい、といったところですか?」
メシヤの考えていることなど、推定年齢3000歳の奈保には容易だった。
「テ、テレパシー?」
「いえいえ、それくらいなら分かりますよ」
奈保の顔は青白いが、メシヤと話すときはほんのり赤みが差していた。
「教えたいのはやまやまですが、私にもヒストリー・コードという縛りがあるのです」
奈保は身の上事情を話した。
「あー、タイムパトロール的なあれかな?」
「ご想像にお任せしますよ」
際どい質問にもにんまりと受け流す奈保。
「ただ、教えられることはあります。石板と言っていますが、あれはタブレットのことなの
です」
「タ、タブレット?」
「『月刊モー。』の愛読者であるメシヤくんなら、エメラルド・タブレットは御存じですね?」
「うん。ヘルメス・トリスメギストスだよね」
「はい。ヘルメス・トリスメギストスは、三重に偉大なる者と訳されますが、あの三重とは三重県のことなのですよ」
「えーーっ!!」
奈保の話には驚かされてばかりのメシヤだった。
「ということは、まさか?」
「そう。三種の神器の石板とは、エメラルド・タブレットのことであり、それは三重県にあ
ります」
「う~ん」
自室でなにやら考え込んでいるメシヤ。
「レオンくんはエメラルド・タブレットを探す前に聖杯を探したほうがいいって教えてくれたけど・・・い」
レオンの言葉を反芻するメシヤ。
「詳細は話せないんです、って言ってたな」
ベッドに寝転がり、お気に入りの勾配天井を見上げる。
「でも、こんなことも話してたな」
(あくまでも順番が大切で、聖杯もタブレットもじきに見つかりますよ)
「順番かあ。本当に何者なんだろう。ある意味、三種の神器以上にオーパーソン(※メシヤの造語。オーパーツのような人物のことらしい)だなレオンくんは」