モーニングコーヒー飲もうよ
紅茶派のマリアだが、朝は眠気覚ましにコーヒーを淹れることが多い。
いつもは修道院でのコーヒーだが、街に出掛けて喫茶店に行くこともある。
「マリアちゃん、おはよう」
"コーヒールンバ"のマスターは、バリスタでありバリトンであった。
「おはようございます! マスター、モーニングセットをください」
マリアの私服は、赤と白が基調のコーディネートであった。
カウンターの端っこに先客がいたので、マリアはその反対側に腰掛けた。
前髪に隠れて、横顔ははっきり見えない。
「はい、お待ちどう」
サラダ、ゆでたまご、コーヒー、トースト、ミニラーメン。これらがついて、たったの390円である。
マリアが礼を言うと、まずコーヒーを一口すすった。そして次にサラダに手を付け、ゆでたまご、トースト、ミニラーメンと順に少しずつ食べていったのだが・・・
(あの人、横目でしか確認できてないけど、あたしと同じ順で食べてるわね)
マリアとほぼ同時に、先客にもモーニングセットが供された。
「マリアちゃん。お世辞でもなんでもないんだけど、マリアちゃんが来た日はお客さんの入りが増えるんだよ」
入った時には、カウンターの先客とマリアの二人しかいなかったのだが、現在、店のテーブル席はほぼ埋まっていた。
「え~、たまたまだと思いますよ」
そうは言いつつも、悪い気のしないマリア。店で働いていたら、間違いなく看板娘になっていただろう。
「いやいや。マリアちゃんが来るとね、明らかに店の雰囲気がパーッと明るくなるんだ。すごく話しやすいしさ」
マリアは見た目で誤解されやすい。
「嬉しいな~。あ、そうそうマスター。あたしも自動のじゃ無くて手動のコーヒーミルが欲しくなったんですよ。豆の香りも全然違いますよね」
これにハマりだしたら、抜け出せなくなる。
「それならいいのがあるよ!」
コーヒー専門店だけに、器具の品揃えは豊富だ。思う存分、見るがいい。
「マスター、また来るぜ」
先客が立ち上がった。
「おいそがしいところありがとうございます、白馬さん!」
マリアがドアを振り返った時、先客の姿はもう見えなくなっていた。