街は、またいくつも戸惑いを投げかける
めし屋フジワラにて、いつものメンバーで談笑している。レジカウンターの隅に、マリアが黄色い本を見つけた。
「わ、タウンページじゃない!」
固定電話が廃れ、店の電話番号は検索するいま、貴重な品である。
「たしか何年か前に最終版が出て、いまでは配布しなくなったのでしたね」
諜報活動には、便利な品物であったようだ。
「あれならウチでも使ってたぞ。なにかと細々した部品を買いたいときや、業者を探すときに役立ったもんだ」
いまでは、ネット検索するしかない。
「ハローページってのもあったんだよネ?」
ハローページが無くなった理由は、固定電話を設置している世帯の減少と捉えられるが、迷惑電話が激増したことも大きな要因だろう。メタル回線は段階的に廃止にするとの報道が出た。
「家の固定電話ってほんと迷惑電話が多いんだけど、なんでもかんでも携帯に直接掛かってくるのは、正直しんどいのよね」
マリアはあまり自分の置かれた立場が分かっていないが、メシヤを止められるのは、マリアしかいない。
「分かりますわ。繋がりすぎというのはよく言われますが、携帯の無い時代は、もっと自分の時間を大切に出来た気がします」
レマの生まれた時代にはすでに携帯電話があったはずだが、まだ自分が持たせてもらっていない時、ということだろう。
「イエスも仕事上タウンページを使ってたみたいだけど、自分の街なのにこんなに知らないお店があったんだってビックリするよ。他の街のタウンページも入手したら、どんどん世界が広がって楽しいかもね」
電子版のサイト内では検索した情報を得られるだけだが、紙のタウンページならそれ以外の情報も一気に視界へ飛び込んでくる。
「車のカタログも紙をやめると言い出してるが、やたら紙が悪者にされているな。工事現場の図面にしろ、確認出来たらいいわけじゃ無い。書いて、見てもらって、その場で共有して、やっとこさ疎通できるものがある」
商品を扱うだけの人間と、作品を生み出す人間との差が、このあたりにある。
「辞典とか図鑑もね。じっくり眺めてもっと色んな生物や言葉が知りたい!ってなったらやっぱり紙なんだけど、出版業界も赤字を出してまでやれないだろうし」
メシヤはそのせいで、大昔の図鑑や辞典を収集している。より聞き慣れない、へんてこりんな言葉が増えていく。
「地図を読むのは苦手だからアプリを使ってるけド、絵を描いたりするのが好きだかラ、スケッチブックを持ち歩いてるヨ。タブレットでも描くけど、なんかしっくり来なくてネ」
エリは右脳優位であるが、決して機械音痴というわけではない。
「地図アプリもさ、交差点の名前が出て来なかったりするじゃない? お店のサイトだとなんとなくでしか場所が分からなかったり、分かったとしても周辺の駐車場が見つからなかったり。で、駐車場のサイトを見ると、そのお店がどこにあるのか表示されてなかったり。お金を払わないと分かりにくくするような裏取引でもあるのかしら?」
地図を作り上げるのに、多大な労力が掛かっていることを、忘れてはいけない。
「ゼンリン地図がいまほど高価じゃ無かった頃は、重宝したよね。データ版もあるけどとても手が出ないよ」
RPGをやりこんだメシヤは、地図を見るのが好きである。
(メシヤさまのおかげで地図の書き換え作業が活発になっていますから、ゼンリンを購入するのはもう数年あとで良いかと・・・)