表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
205/213

遠い声 遠い部屋

「マリア、遅くまで感心ですね」

 神父ベネディクトが、シスターマリアを呼び止めた。彼女は、聖ヨハネ北伊勢教会にある女神像を丹念に磨いていた。メシヤはこの像が握っていた二振りの聖剣を、持ち去った経緯がある。


「はい。こうしていると、なぜか落ち着くんです」

 年頃の女子高生、悩みも多かろう。


「この数年で、主の御心から人類は大きく遠ざかってしまいました。ですが、声が届くところには届くと、あなたたちを見ていると感じます」

 ベネディクトは、ロザリオをそのやわらかな手で覆った。


「神父さま。あたし、いままで周りから散々言われてきたんです。『神様なんか信じてるの?』とか『願いなんか叶えてくれるわけがない』だとか。ひどいのになると『世の中こんな悲惨な状況になってるのに、神様はなにもしてくれないじゃないか。だから神様なんているわけないんだよ』なんて、吐き捨てるように」

 見た目がギャルそのもののマリアだが、信仰心とはなんら関係無い。


「そうしたインフィデルの人達の言い分も、一理あるでしょう。たとえばですが、神社参りをして『僕はサッカー選手になって、ワールドカップで優勝したい』とお願いしたとしましょう」

 マリアは、素直に頷いた。


「そうした願いは大抵聞き届けられません。ですが、本当に熱烈に願っているのなら、その人物を主は試そうとします」

 滔滔とうとうと話す神父。


「お祈りをした時点では経験値が低い少年に対して、修練を積ませるようなシチュエーションを、どんどん作り出してくるのです。それを乗り越えていけば、そんな夢はたやすく実現するようになっているだろう、と、こういう主の慈愛なのです」

 ベネディクトは、神のしもべにふさわしい笑顔を浮かべた。


「はい! 祈っただけでどんな願いも叶うのだったら、無神論者が納得しないのもいたしかたありませんね」

 マリアは十字を切った。


「自分自身の意志が無いことには、何も始まりません。どんな将来にしたいのか、どんな世界で過ごしたいのか、まず自分の小宇宙の中に描いてみることです。すべてはそこからです」












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ