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戦う女神

 聖ヨハネ北伊勢教会は、市役所から徒歩2分のところにある。

もう午後10時になろうとしているのに、空はほのかに明るかった。

月は満ち、星の輝きがメシヤの敏感な肌には心地よかった。


「さあ、いぐぜ」

 メシヤは足音を立てないという、大して役に立たない特技があった。

それもこれも遅刻が日常で、音を立てずに教室に入り、しれっと席に座る習慣が身についていたためであろう。


 目的地には迷うことなく辿り着いた。

女神像はステンドグラスからの月明かりでライトアップされていた。

慈愛に満ちた表情とは好対照に、強さの象徴である剣を二振り、左右の手でクロスさせていた。

「よっしゃ、両手の剣を拝借しよう」

 メシヤが触れると、二刀はいともあっさり女神像の手元から離れた。


「メ~シ~ヤ~」

「わっ! 出た!」

 メシヤの名前を低音で伸ばされると、悪霊が化けて出たかと錯覚される。


「やっぱりまた来たのね!」

 運悪くマリアに見つかった。

 マリアは愛くるしいタヌキ顔だが、その中身は恐ろしい女狐であった。


「いや~これは・・・」

「聞かせてくれるんでしょうね」

「うん、僕の十八番、雨の西桑名!」

 メシヤの音楽的センスはさておき、彼のスマホには傾向のつかめない古今東西の楽曲が収められている。この演歌は父親によく聞かされて、メシヤも得意にしている。


「磔にするわよ!」

「冗談だよ、夜の礼拝に来たんだよ」

「こんな時間にとっくに終わってるわよ!」

 さっきから怒ってばかりのマリアだが、メシヤを相手にすると特に厳しい。他の同級生にはそうでもないのだが。


「イエスくんまでメシヤに付き合うことないわよ」

「面目ない」

「さあ、その手に持ってるものを返しなさい!」

「わ、わ! そんなに引っ張ったら危ない!」

 メシヤが力を抜いたので、勢い余って剣が女神像の台座に体当たりをする格好になった。


 バッキーン


 サビサビだった神宝の剣はつかを残して粉々になってしまった。


「ああ、なんてこと。神父様に知れたら・・・」

 気の強いマリアだが、神父の言いつけはよく守り、彼には絶大な信頼を寄せている。






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