ベアークローで苦労知らず
「もうすっかり春よねえ」
背伸びしたい年頃のマリアは、ちょっぴり気取ってみたくなる。
「うん。こんな世情でも、毎年変わらず桜は咲くんだよね」
桜味のスイーツは苦手なメシヤ。
「メシヤさま、今年は何を植えるのですか?」
いまだに高校一年生のレギュラー陣であるが、留年したわけではない。
「ワタシ達のスペースも空けておいてほしいネ!」
メシヤの農園で採れた野菜は、そのまま食堂で供される。
「ま、9割方去年と同じだよ。少しだけいつもと違うのを植える程度さ」
メシヤは耕運機を使って、団粒構造を作り出す。
「慣れたもんね」
あまり褒めないマリアも、感心している。
「ここ数年で蔬菜園芸ブームが起きてるけど、途中でやめちゃう人も多いらしい。最初はやる気になっても、世話を続けるのは大変だからね」
ペットを飼う前にも、相当な決心が必要だ。
「水撒きもそうですが、やはり草取りがネックでしょうか」
夏場は草を取っても取っても生えてくる。
広末涼子は草抜きが得意に違いない。
「草刈り機を使うわけにもいかないネ」
草刈り機での除草は、とっくにこなせるようになったエリ。
「備中鍬じゃ大きすぎるから熊手でこまめに取りたいね。ちょっと追肥したいときなんかは、小さい平鍬と備中鍬が背中合わせになってるタイプのものも便利だね」
ちなみに、熊手の英語はベアークローではない。
「メシヤ~、大きめの草は熊手じゃ取れないヨ」
気を利かせて庭の手入れをしていたエリ。
「ありがとうエリ。こういう時はさ、枝切りバサミで根元から切っちゃえばいいんだよ」
メシヤの指導を受けて、次々と切除していくエリ。切るのは楽しい作業だ。
「こちらには花壇がありますわ」
美しいものを嫌いな人はいないだろう。
「そう、花時計なんだ。けっこう考えるのに苦労したよ」
機械時計の周りに花で飾ったものもこう呼ぶが、メシヤの花時計は、開閉時間の異なる花を組み合わせて植えた花壇である。植物学者のリンネが、定まった時刻に花が開閉するのを見て、時計の代わりになると考えたのが始まりである。