コモンランゲージ
「ねえ、メシヤ」
コンピュータ室でマリアが声を掛ける。
「なんだい?」
キーボードを叩きながら返事をするメシヤ。
「プログラミング言語って、何百種類とあるじゃない? 統一って出来ないのかしら」
メシヤは手が止まり、大きく目を見開いた。
「まだまだITも発展途上で、ひとつの言語では需要を満足できないから、なんて言われてるけど、ホントは一つにしたほうが何かと好都合だろうね」
「あたしもさ、自発的に学ぼうと思ってるんだけど、なにしろ数が多すぎるから、どれから手を付けていいか分からなくって」
「そうだなあ・・・」
右腕で頬をささえてメシヤが考え始めた。
「話が逸れるかもだけど、日本語はあらゆる国の言葉を取り入れることが出来る言語体系なんだと思うよ」
「本当に逸れたわね」
「『君と僕とでトゥギャザーしようぜ』ってまぜこぜにしても通じるじゃん?」
「ルーさんじゃないの!」
「日本語はさ、アルファベットでも表記出来るし、どこの国の言葉でもカタカナで置き換えられるし、文法的にも組み込み方次第で何らおかしくない文章を作れると思うんだよね」
「あんた、ふざけてた訳じゃなかったのね」
「よく識字率の話で、日本人は高くて海外の人は低めって話が出るけど、勤勉性とか教育の熱心さとかは抜きにしても、単に文字の視認性が高いってことが大きいんじゃないかな」
「言われてみるとそうよね。アルファベットだけの記述とか、ひとつの文字種だけの言語って、誤読の原因になりそうだし」
メシヤが以前話していた、「小人の靴屋」のコーディング画面を表記させている。
「あっ、これが例のやつね」
マリアが身を乗り出してのぞき込む。
「なんか日記帳を見られるような恥ずかしさがあるね」
ガラにも無くメシヤが照れる。
「な、なによこれ・・・」
そこには、日本語・英語・カタカナ・中国語・ハングル・ロシア語・フランス語・スペイン語・ヘブライ語・・・と、何十カ国もの文字種を使った、大層奇妙なコードが書かれていた。
「あんたまた変なことやってるわね」
マリアが感心したような呆れたような声を出した。
「iPhoneとか初期設定する時にどこの国の言語か選ぶけど、あれを作っている人達からしたら、僕の作業なんて知れてると思うよ」
「これでちゃんと動作するの?」
「理論的にはね。基本の文法は日本語で、単語や短いコマンドで各国の言語が使われてるって程度だから」
マリアが黙りこんで考えている。
「う~ん。これってさ、プログラミング言語って言うより、もはや制限のない文学作品って感じよね」
「はは、そうかもね。小人の靴屋の良いところはさ、目的に応じてプログラミング言語を変える必要が無いってことなんだよ。不都合があったら「グッド・シューミット」内で、どんどん書き直して変更すればいいし。
「あらゆる国の言語を取り入れてるからこそ出来る芸当って訳ね」