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逆ハーレムは実現可能?

「逆ハーレムって、マジだったんだぁ~?」

「──あ──」

「へ~。いい年して厨二病なんだねぇ~。よかったぁ。目障りな害虫が、ソラくん好みの女じゃなくて」

「──~っ!」

「えい」


 俺が大宮の声だけはっきりと認識できると気づいていない彼女は、俺の手からスマートフォンを取り上げれば、話の内容を理解できないと思い込んでいる。

 馬鹿女に牽制した声、聞こえてるぞ。

 テレビカメラの前で声が聞こえていると発言して、難聴は同情を誘うための嘘だと幻滅されても困る。

 俺はスマートフォンを奪い取った大宮へ、返してほしいと口にすることはなくじっとしていた。


『「理解しなくていいよ。皆の所、戻ろ?」』


 気を利かせたのだろう。

 大宮は奪い取った俺のスマートフォンに文字を入力すると、声に出してそれを読み上げた。馬鹿女に聞かせる為だろう。

 馬鹿女は、スマートフォンの画面を確認できない位置にいるからだ。


「──!ば──、しょ──」


 俺は大宮の声が好きだ。

 容姿はまぁ、かわいいとは思う。現役の国民的アイドルが可愛くなかったら、それはそれで問題だろ。

 難点があるとしたら……中身だよな、やっぱり。

 性格はあまりよろしくない。本人は演技だと言い張って俺のこと罵倒するし、恐らく本心で馬鹿女を煽っている。

 演技だと俺には説明したが、それが本心であるか演技なのかは、本人しか知り得ないことだ。大宮を全面的に信頼するのは、不安が残る。

 彼女の本心は、数日一緒に仕事をした程度では計り知れない。

 いつもにこにこ笑顔を浮かべる大宮の本心を、知ったなら。俺は……。


「はい、右向け右~。会話が成立しない宇宙人と、話す時間が無駄だよ~」

「だ──!」

「大宮。俺、言いたいことあるんだけど」


 大宮は自然に俺の肩を掴むと、くるりと右に回して馬鹿女へ背を向けた。

 馬鹿女が電波であること発覚したことにより、100分の一も伝えられていない。


『ん~。じゃあ、一方的に捲し立てちゃう?』


 大宮は笑顔でスマートフォンに入力した文字を見せた。馬鹿女が喋っているかどうかは口を動かしているかいないかでわかるが、話の内容はわからない。

 耳が聞こえた所で、馬鹿女の主張は理解できないのだ。聞くだけ無駄だと俺からスマートフォンを奪ったのは、間違いではない。


「はいはーい!注目~。ソラくんが電波ちゃんに言いたいことがあるそうなので、お口チャーック!しましょーね~」

「──!」


 小さく頷いた俺は目線だけを馬鹿女の口元に向け、静かにしていられない様子を見せる馬鹿女へ言い放つ。


「てめぇが俺を藻掻けば藻掻くほど、俺はてめぇが嫌いになる。てめぇが来てから、俺らの人生は無茶苦茶だ。てめぇだけは絶対許さねぇ。あいつらが何でてめぇみたいな電波女を好きになったのか、知りたくもねぇけど──」

「──!ソ──、──!」

「複数の男に言い寄って搾取する馬鹿女を見て、惚れる男なんざろくなもんじゃねぇだろ。逆ハーレムなんて、実現不可能な夢に俺たちを巻き込むんじゃねぇよ」

「──っ、──、──!」


 三馬鹿が聞いたら、馬鹿女になんて酷いことを言うんだと俺が怒られそうなことを口にしてしまったが、後悔はしていない。


「ソラくん」


 馬鹿女の喚き声が聞こえなくなった頃。

 俺のスマートフォンを返した大宮は、俺の名を呼ぶ。


「逆ハーレムは、実現可能だよ」


 俺はスマートフォンの画面に表示された文字を確認しながら、大宮の顔色を窺う。大宮は、珍しく真顔だった。


「わたしが、叩きのめしてあげる」


 現実と非現実の区別がついていない馬鹿女に、自分がやられたら一番嫌なことをやり返すには、男の俺では難しい。

 俺ができる復讐があるとしたら、馬鹿女を好きになり、逆ハーレムに取り込まれ、馬鹿女が言う所のトゥルーエンドとやらを迎えた瞬間にてめぇなんか好きじゃねぇよとはしごを外すくらいだろうか。

 俺が最終的にはしごを外した所で、三馬鹿は馬鹿女を愛し続けるのだから、あまり意味がないような気もする。


 大宮の提案を、俺は一度断っていた。


 やられたことをやり返した所で、馬鹿は理解できないからだ。

 人の痛みを理解できない人間にやられたことをやり返したら、馬鹿女は理不尽だと大暴れして、大宮を傷つけるかもしれない。

 それだけは、絶対に阻止しなければならなかった。


「言動が意味不明なのに惚れ込むってことは、そういうことだよね?わたし、そういうことに抵抗ないよ。ソラくんを助けるためなら、いくらだって頑張っちゃう」


 俺たちは未成年だ。直接的な発言はしなかったが、テレビカメラがこちらを撮影している状況下でそうした言動をするのは、あまりいい行いとは言えないだろう。

 芸能人では、そうしたことは日常茶飯事だ。

 男も女も、芸能界でうまくいきていく為に、そういうことは切っても切り離せない。そういうことに抵抗があるやつは、そもそもアイドルになった所で長くは持たないからな。

 そういうことしている奴らに嫌悪感しか抱けなくなったせいで、俺の耳はぶっ壊れた。


 大宮も、三馬鹿と一緒だ。


 一定期間は友人としてうまくやれても、いずれは関係が崩れる。

 こいつを信頼するべきじゃない。一度失った聴力は戻らないし、馬鹿女がいなくなった所で、俺と水都が三馬鹿達と一緒に手を取り合って武道館を目指すことなど──今更、できるはずがないだろう。


「俺は望んでねぇから」

「ソラくんの耳は、電波女がメンバーを籠絡したせいで、聞こえなくなったんだよね?適切な治療を受けたら、突発性難聴は改善される。ストレスがなくなれば、きっと──」

「……俺の耳が聞こえるようになった所で、大宮にメリットがあんのかよ」

「……わたしの声、ソラくんに聞いてほしいから」


 他の奴らが話す声は聞こえねぇけど、大宮の声はぶっ壊れたままでもよく聞こえている。

 大宮が俺のために、一肌脱ぐ必要なんてないのだ。

 俺のためになんて、行動する必要はねぇ。

 どうしても俺のために、何かしたいんだったら──。


「馬鹿女から三馬鹿を奪い取る暇があるなら、番組内で俺が好きだってことを視聴者にわかりやすくアピールした方がマシだろ」

「……そう、かなぁ?」

「大宮の目的は、三馬鹿を籠絡することじゃねぇだろ」

「うん!わたしの目的は、ソラくんと相思相愛なカップルになることだよ~!」

「馬鹿はほっとけ」

「うん……」


 大宮は小さく頷いたが、顔色は優れない。好きな人の力になりたいと考えるのは自然なことかもしれないが、それは俺と交際してからにしてほしい。

 俺なんかが、誰かに恋愛的な意味で好かれるわけがないと思っていた。

 King deceptionの中でも俺の人気は三馬鹿がまともだった頃から最下位で、グループ内では浮いた存在だったからな。

 俺のファンは同情心だけで推しているし、大宮だって同情心で俺を気にしているだけのはずだ。

 俺がまともな恋なんざ、できるはずがねぇ。期待するだけ損だ。


「わたしと番組内でゴールイン、してくれちゃったりする……?」


 恋愛リアリティショーに出演しているからには、誰かしらへ告白しなければならない。

 他の奴らは俺にちょっかいをかけてくる様子はねぇし、告白してカップルを成立させるなら、大宮が適任だ。

 あれだけ派手に炎上している以上、俺たちがカップルになれば賛否用論はあるだろう。

 視聴者から向けられる意見を祝福の声に変えられるかどうかは、大宮の頑張りに掛かっている。


「そういう流れになればな」

「やったぁ!そういう流れになるよう、頑張るねっ」


 大宮はごきげんな様子で、カメラに向かって手を振った。

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