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花恋の秘密

 「ソラくん、お疲れ様~!プライベートで会うなんて、偶然だねぇ~。恋の花こと、花恋だよー!」


 何が偶然なんだ。嘘つけ。

 さっきまで三馬鹿を取っ替え引っ替えしていたくせに。

 やるなら俺のいない所でやれよ。

 俺は心の中で大宮に散々文句を言いながら、明るい彼女の声にを聴いて目を閉じる。


「さすがは現役アイドルだねぇ~。ソラくんはお歌が上手!アイドルやめても、シンガーソングライターとしてデビュー出来ちゃいそうだよ!」


 ソロデビュー出来るくらいの実力や人気があれは、アイドルグループになんざ所属してねぇよ。

 アイドルグループは、事務所のお荷物をひとまとめ気にして売出し、大金を稼ぐ為に結成されることがほとんどだ。

 露骨なことやる事務所だと、ソロとして売り出したいイチオシのアイドルをセンターに添えて、その他を踏み台扱いしてくる所も多い。

 大宮の所属するImitation Queenなんかは、その傾向が大きいだろう。

 七色虹花が強すぎて、その他メンバーは所属しているだけになっている。

 その中でも大宮は、炎上の件で頭一つ分抜けたけどな。

 俺の所は……どんぐりの背比べ、どっこいどっこいだ。

 馬鹿女が引っ掛け回す前は三馬鹿の方が俺より人気はあったけど、ああいうことになったので、今では水都の人気が急上昇している。

 俺は大宮との恋愛スキャンダルつーか……その辺りがあるので、ガチ恋が推してくることがない。人気が爆発的に上がることはなかった。

 まぁ、人生そんなもんだよな。


「男のシンガーソングライターなんざ、需要がねぇだろ」

「えー?そんなことないよ~。需要なら、ここにありまーす!」


 大宮はいちいち大袈裟にアピールすると、俺に向かって声を上げた。

 大宮の高い声はよく通る。人気がないからいいもの……人通りの多い場所であれば、すぐにImitation Queenの大宮花恋であることがバレてしまうだろう。


「ソラくん、なんだかご機嫌斜め?わたしがパフパフしてあげよっか?」

「意味わかんねぇ」

「え~?意味不明なんかじゃないよ~。こうやって……」

「馬鹿に触れた手で触んな」

「ソラくん?」


 弟が馬鹿女を押し倒している姿と、大宮が三馬鹿に代わる代わる密着しては笑顔を浮かべていたことを思い出した俺は目を見開き、こちらへ伸ばしてきた手を叩き落とす。

 今まで渋々大宮のアプローチを受け入れてきた俺が、拒絶するとは思わなかったのだろう。大宮は目を丸くしていた。


 どいつもこいつも。本当に馬鹿ばっかりだ。


 こうなることを見越して行動してんだろ。

 俺を守るとか言いながら、結局自分たちの都合しか考えてねぇじゃん。

 俺が傷つくのをわかっていて、弟と大宮は俺を守る振りをした。

 それを裏切りと呼ばずに、なんと呼べばいいのだろう。


「馬鹿に構っている暇があれば、俺を振り向かせる努力をしろって、言ったよな?」

「うん。聞いたよ~?」

「覚えてるなら……っ。なんで、三馬鹿とデートしてんだよ。どうせやるなら、絶対に俺がわかんねぇ所でやれ。なんで俺が、こんな苦しい思いしなきゃなんねぇんだよ。俺はお前にとって、何なわけ?」

「世界で一番大切な、愛する人だよ」


 大宮はあっけらかんと言い放った。気が狂っているとしか思えない。

 三馬鹿と関係を持ちながら、俺のことが好きとかどの口が言うんだよ。意味わかんねぇ。


「てめぇも、馬鹿女と同じってことか」

「うん。そうだよ?わたしは、馬鹿女の上位互換。あんな小物とは、一緒にしないで欲しいなぁ~」


 大宮は俺に悪びれることなく、同類だと認めた。


 上位互換?あんな小物とは一緒にしないで?

 何を言っているのか、さっぱり理解できねぇ。俺が番組内でいい雰囲気になった大宮は、こんなこと言わない。

 こいつは、どれがこいつの本当なんだ……?


「ソラくん、いいこと教えてあげよっか」


 大宮は俺の胸へ縋り付く。俺は抵抗しようとしたが、後方にはジャングルジム、前方には大宮がいるせいで身動きが取れない。

 俺の耳たぶに噛みついた大宮は、耳たぶを唇で弄びながら、耳元で囁いた。


「中学の時にね、通っている男子学生を、全員わたしの奴隷にしてあげたんだぁ」


 大宮の声だけが聞こえることを知らない彼女は、俺の耳がぶっ壊れていることをいいことに、明るい声で昔話を始める。

 中学時代、在籍する男子学生全員を奴隷として扱ったこと。

 大宮が願うことはなんでも男子学生によって叶えられ、大宮の異常な逆ハーレムに異を唱えた女子学生は、全員大宮の信者と化した男子学生に口では言えないような酷い目にあったのだと告げてきたのだ。

 俺は空いた口が塞がらず、気づいた時には大宮から逃れようと抵抗することすら諦めていた。


 こいつは一体、何の話をしてんだ?


 逆ハーレムなんざ馬鹿げていると馬鹿女に告げた大宮は、中学生時代に数百人単位の逆ハーレムを形成していたことがあるなんざ、聞きたくなかった。


「わたし、中学時代は恋奴隷の女王様なんて呼ばれてたんだよ?酷いよねぇ。わたしは、女王様なんて柄じゃないのに……」


 花恋の恋に、恋愛の恋。奴隷を統括する女王様と呼ばれることは、あまり気分がいいものじゃないらしい。

 俺が言葉を紡がずじっと話を聞く体制でいるからか。

 大宮は一方的に捲し立て続ける。


「Imitation Queenにはね?決まりがあるんだぁ~。メンバーになれるのは、プロデューサーに見初められた、誰にも言えない秘密を抱える女の子だけなの。その秘密は、プロデューサーと、愛する人にしか告げてはいけないんだぁ。ソラくんはわたしの愛する人だから。伝えておかなくちゃって思ったの。ああ、でも。聞こえてないかなぁ?これじゃ、伝えたことにはならな──」

「……なにが、したいんだよ……」


 そんなこと俺に伝えて、大宮は何がしたいんだ?

 愛しているなんて、口ではどうとでも言える。

 信じられるわけねぇだろ。誰に対しても、愛している男と同じように接する女のことなんざ。


「ソラくん、スマホ……手に持ってないと、聞こえないよね?」

「俺にどうしろって言うんだよ……っ」

「ソラくん?もしもーし……」

「うるせぇ」


 大宮は俺の耳から顔をあげると、顔の前でひらひらと手を振る。

 俺はこの期に及んでも笑顔を浮かべる大宮にムカついて、彼女の手を掴み強引に引き寄せた。


「ソラく……」

「大宮の声だけは、聞こえるんだよ。初めて会った時から。ずっと……」

「でも、ソラくんは……突発性難聴なんじゃ……」

「低い音が聞こえねぇだけで、高い音は比較的聞き取りやすい。大宮の声は特徴的だから、クリアに聞こえるんだよ。てめぇが俺のこと好きだとか、愛しているとか言い始めた時から。俺は勝手に運命だと思って、大宮の声が……大宮の声だけは……」

「ソラくん」


 俺が大宮を抱きしめる力を弱めれば、モゾモゾと彼女が俺の腕から抜け出てきた。

 大宮は俺の両頬に指を這わせて挟み込むと、俺に強請る。


「最後まで、わたしに伝えてほしいなぁ~。恥ずかしがらないで、聞かせてよ。わたしの声が、なーんだ?」

「……てめぇの愛は信頼ならねぇ。この先は言いたくない」

「だーめ。最後まで、わたしに教えて?教えてくれなきゃ、ここで押し掛しちゃうぞ~っ」


 大宮のせいで、甘い雰囲気が霧散した。

 馬鹿女が馬鹿なら、大宮はアホだ。馬鹿につける薬はあるけど、アホに付ける薬は恐らくない。


「わかってんのか。てめぇは俺に、してほしくないことをしたんだぞ」

「ソラくんが毎日穏やかに、幸せな毎日を過ごすために必要なら、仕方ないよねぇ~」

「俺が大宮に対する好意を認めたあとも……浮気とか、するかもしれねぇじゃねぇか。俺は嫌いだ。不特定多数に媚び売る女。不誠実じゃねぇか」

「ソラくんを傷つける奴らが消えたら、浮気なんてしないよ~っ。わたし、恋奴隷のことは全然好きじゃないもん。都合のいいように使ってあげてるだけ」

「クズだな」


 周りが勝手に好意を抱いているだけで、大宮は何も悪くないと開き直るその態度が気に食わない。

 みんなが大好きと七色虹花のように開き直ったら、それはそれで気味が悪ぃけど。


「ソラくんは辛辣だねぇ~。そんな所も、ス・テ・キっ」


 大宮が俺の顎を手に取り、クイッと上に向ける。

 押し倒すんじゃなかったのかよ。グイグイ来る大宮は手慣れているようで、唇が触れ合う距離まで顔を近づけると、不敵に笑う。

 語尾にハートマークがついていそうなほどご機嫌な様子を見せる大宮と、喜ぶべきか悲しむべきなのかすらもよくわからない、俺との温度差が激しすぎて風邪を引きそうだ。


「ふぐぐ……」


 俺は大宮の唇を手で塞ぐと、おでこ同士をコツンとぶつけ、大宮へ言葉を紡いだ。

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