様子のおかしい僕の婚約者
緩い世界観のゆるゆる設定です。
読み直ししておりますが多分誤字があると思います(m´・ω・`)m ゴメンネェ
久々の男性視点物になります。
僕はスチュアート・トアルドーム。
トアルドーム国の第一王子にして王太子である。
僕には双子の姉アンジェリカ・トアルドームと2歳年下の弟であり第二王子のレーペンス・トアルドームという2人の姉弟がいる。
そして僕には侯爵家の次女オリヴィー・ミットランという婚約者もいる。
婚約者であるオリヴィーとは10歳の頃から8年間婚約関係を結んでおり、出会った当初から愛くるしく素直で優しいオリヴィーが僕は大好きで、オリヴィーと婚約出来て本当に幸運だと思っている。
しかし、最近のオリヴィーはどこか変である。
何が変なのかはイマイチ分からないのだが、会話をしていて微妙に噛み合っていない気がしたり、オリヴィーの視線が以前と違うように感じるのだ。
「スチュアート様、本日は如何お過ごしでしたか?」
王太子妃教育が終わると何時もお茶の時間が設けられており、オリヴィーと2人で幸せな一時を過ごす事が僕の日課だ。
「今日は執務室に篭っていたよ」
「まぁ♡」
語尾にハートマークが付いていた気がしたのは気の所為だろうか?
「では本日もランバート様とご一緒に?」
「そうだね、ランバートは僕の側近だからね」
「まぁまぁ♡」
また語尾にハートマークが付いた気がする。
「お2人の時はお互いに何と呼び合っておられるのです?」
「僕は普通にランバートと呼んでいるよ?ランバートは僕の事を殿下と呼んでいるが、時々「おい!」だとか「スチュアート!」と呼び捨ての時もあるかな?」
「そうなのですね、呼び捨て...素敵♡」
ん?今「素敵♡」と聞こえたのか?
「何が素敵なんだい?」
「おほほ、それはこちらの話ですわ。どうかお気になさらずに」
「気になるよ...」
実に気になる。
だけどオリヴィーは言う気はないようで笑って誤魔化されてしまった。
*
今日は朝から王宮騎士の訓練に参加している。
王子たるもの己の身を守る為に鍛錬は必須であり、僕は剣の才に恵まれていたようで年に一度開催される剣術大会で良い線まで行っている。
流石に騎士団長や副団長達には敵わず決勝手前で敗退してしまうが、何時か勝ちたいと思っているし、勝った姿をオリヴィーに見てもらいたいと思っている。
今日の訓練にはランバートも一緒に来ている。
文官畑のランバートは体を動かす事を苦手としており、こういう訓練の時は何かと理由を付けて逃げようとするのだが、今回はランバートの父親である宰相から「お前も鍛えてもらえ!」と強制参加を告げられたようで嫌そうな顔をしながらも参加している。
そして今日は訓練を見学しにオリヴィーも来ている。
これは情けない姿は晒せないぞと僕は気合いを入れ直した。
トーナメント戦形式で模擬戦を行い、初戦は僕とランバートの対戦となった。
構えからしてなっていないランバートに負ける気はしないが油断は禁物である。
「始めっ!」
団長の掛け声で試合は始まった。
腰が引けているランバートが剣の柄を両手で包み込むように握り、「とぁぁぁぁ!」とおかしな掛け声を上げながら僕に向かって来たから、それを軽く避け、剣ではなく足でランバートの尻を軽く蹴った。
剣を使うが体術もありの実践方式なので蹴りも有効である。
試合のルールとして、決められた枠線から出てしまうとその時点で負けが確定する。
それ以外にも剣を落としたり、「参った!」と白旗を上げたり、審判(団長)の判断で戦闘不能だと見做されても負けである。
ランバートは僕に軽く蹴られただけであっさりと場外に出てしまって、僕の勝ちが確定した。
「情けないぞ、ランバート」
「きょ、今日はたまたま体調が悪かったんだ!」
不格好に倒れているランバートに手を差し伸べて立ち上がらせると、「まぁ、次は頑張れよ」と言いながら肩を組んで歩いた。
僕の姿を見ていてくれただろうかとオリヴィーの方を見るとしっかりと目が合った。
しかし何故かすぐに目を逸らされてしまった。
まるで「私は何も見ていません!」と言いたげな顔をして。
何なんだ?何故目を逸らす?
その後僕は順調に勝ち進みいよいよ強敵であり未だに勝てた事がない副団長と当たる事となった。
「始めっ!」
団長の合図が聞こえた途端に副団長の構えが変わった。
それだけで空気すらも変わり、ピリピリする程の闘気が副団長から発せられたのを感じた。
これで全く本気ではないのだからどれだけ化け物なんだ。
副団長の体がゆらりと動いたと思ったらあっという間に距離を詰められ、剣が美しい軌道を描きながらも尋常ではない速さで打ち込まれる。
副団長の剣技は舞のようだと評される程に美しく恐ろしい。
何とか剣で防ぐものの、舞のように美しいながらも重い一撃一撃に剣を握る手が痺れてきた。
何とか反撃の一手を打ちたい所だがそんな隙は与えてはもらえない。
遂に限界が来た手から剣が落ち、僕の負けが確定した。
「8分ですか...立派になられましたね」
前回戦った時は5分持ち堪えたのだが今回は8分という事か。
ただの防戦一方で良い所なんて一つもなかったのに何が「立派になられましたね」だ。
「スチュアート様!」
オリヴィーが駆け寄って来て僕を心配そうに見ていた。
「また負けてしまったよ」
「それでも、以前より動きも良くなっておられましたわ!素敵でした!」
今回の「素敵でした!」にはハートマークが付いていない気がする。
何が違うんだろうか?
「お疲れ様です!あの副団長相手にあそこまで粘るとは流石ですね!」
ランバートもやって来て僕を労ってくれた。
「あ、あの...ランバート様...おし、んんっ、でん、いえ、あの...殿下に蹴られた所は、大丈夫ですか?」
「おし」「でん」ん??もしや「お尻」「臀部」と言おうとしたのだろうか?
オリヴィーの顔は恥ずかしいのか少しだけ赤くなっている。
「ん?あ、えぇ、大丈夫ですよ。ご心配していただきありがとうございます。軽く蹴られただけでしたので何ともありませんよ」
「そうでしたか、それは良かったです...使い物にならなくなっていたら大変でしょうから」
この言葉にはランバートも「え?」と言った。
「あ、あの、オリヴィー嬢?使い物とは、一体何の事でしょうか?尻が使い物にならなくなると何が大変だと仰るのでしょう?」
「あ、いえ、あの、それは、ねぇ?」
僕とランバートを交互にチラチラと見て何とも言えない表情を浮かべるオリヴィー。
「オリヴィー嬢、何やら誤解をされてはいませんか?」
ランバートは何かに気付いたようで爽やかに見えるが実は少し怒っていると分かる笑顔を浮かべている。
「誤解だなんてとんでもございません!私、自分の立場というものはきちんと弁えているつもりですわ!愛するお二人の仲を引き裂くような無粋な真似は致しませんし」
「ちょっと待った!誰が「愛するお二人」だって?それどういう事?僕とランバートが愛し合ってるって言いたいのかな?」
「え?だって...そうなのでしょう?お二人は真実の愛で結ばれておられるのですわよね?」
「はぁぁぁぁ...」
ランバートが深い溜息を吐き出した。
僕は頭が痛くなりそうだった。
「ここでは何ですから、少し場を移して、じっくりお話をお聞きしても宜しいでしょうか、オリヴィー嬢?」
「は、はいぃっ!」
恐ろしい程の圧力をランバートから感じ取ったオリヴィーは青ざめながらも返事をした。
城へと戻り、僕の私室で話をする事となったのだが、ランバートの不機嫌さが尋常でなく、オリヴィーはすっかり怯えているようだった。
「どうして僕とランバートが愛し合っているなんて誤解をしているのか、その辺を詳しく教えてくれないかな?」
「誤解、なのですか?」
「誤解じゃなければ何だと言うんだい?僕はオリヴィーを愛しているんだけど、僕の愛は伝わってはいなかったのかな?」
「それは、何となく分かっておりましたが...でも『真実の本』によるとスチュアート様とランバート様は身も心も捧げ合う程に愛し合っているのだと」
「「何だその『真実の本』とは?!」」
僕もランバートも同時に声を上げていた。
「アンジェリカ様がお持ちの、王家に伝わる本でございますわ、国宝だとお聞きしています」
「そんな本あったのか?」
「いや、知らない」
ランバートに聞かれたが僕はそんな本の存在を知らない。
アンジェリカは最近『転生者』や『転移者』、『異世界人』と類される者達に興味を持っていて、一人で調べ物をしている事は把握していたが、そんな本を持っているなんて聞いた事もなかった。
そもそも王家所有の宝物に関して僕が知らない物が存在している事自体おかしい。
王太子となった際に僕は宝物庫の一覧を受け取っている。
後に僕と僕の妃となる者が管理をするのだと言われ、中身を覚えるように言われた為にざっくりとだが目を通したが、そんな物は存在していなかった。
「そこには何が書いてあるんですか?!」
「あの、それは、その...お二人の愛し合う様子が、事細かに」
「そこの所を是非詳しく!」
「あの、それは、口にするのはちょっと」
「いいから言え!」
ランバートの口調が変わった。
完全にキレた証拠である。
こうなってしまうとランバートは追求の手を緩めない。
その後オリヴィーの口から語られたのは想像するのも嫌な程のおぞましい内容だった。
何故愛する女性がいるのにランバートとそんな事をしなければならないんだ!
「だから尻を気にしていたのか!」
ランバートの顔には隠しもしない激怒の色が浮かんでいた。
何が『真実の本』だ!何一つ真実なんて書いてないじゃないか!
「アンジェリカァァァァァ!!!」
「あのクソ王女が!!」
僕とランバートはほぼ同時に立ち上がった。
向かう先はただ一つ、アンジェリカの所だ。
「な、な、何ですの?!」
ノックもせずに入って来た僕達にアンジェリカは戸惑っていた。
「アンジェリカ!真実の本とは何だ!」
「オリヴィー嬢から聞いている!さっさと吐け!クソ王女!」
「な、な、何でそれを?!」
「「いいから出せ!その本を!!」」
「はいぃっ!!」
アンジェリカが机の引き出しから取り出したのは薄っぺらい本だった。
中には僕とランバートだと分かる絵が描かれており、本の中では男二人がくんずほぐれつ、口に出すのも嫌な行為を繰り広げていた。
「愛している」「お前だけだ」「この身も心もお前に捧げよう」
誰が言うか!そんな科白!
「これは何なんだ!!」
「説明をお願い出来ますよね?!」
「それは、その、あ、あれよ、あれ!しゅ、趣味!趣味の本よ!」
「ほぅ...僕とランバートがこんな事をするのがお前の趣味だと?!」
「この本、誰に描かせたのです?まさか、アンジェリカ様が描いたなんて言いませんよね?」
「私が描いたのよ!こんな事を誰かに説明出来る訳がないじゃない!だったら自分で描く以外の選択肢なんてないでしょ?!」
「ほぅ...お前が描いたと...」
「へぇ、王女様自ら描かれたのですね」
「「覚悟は出来ているのだろうな!!」」
「ちょ、ちょっと待って、話せば分かると思うの、ね、早まらないで...キャァァァァァ!」
その後、アンジェリカに2人でこってりとお仕置をしたのは一応王女(クソが頭に付くが)の名誉の為に詳細は省かせてもらおう。
*
あの薄っぺらい本はアンジェリカが興味を持っていた転生者や転移者、異世界人達がこっそりと描いていた物が残っていたようで、それを発見したアンジェリカが何故か「素晴らしいわ!」と感銘を受け、だが誰かに制作を頼む事は憚られ、一番身近にいて想像しやすかったという理由で僕とランバートをモデルにしたそうだ。
それをたまたまアンジェリカの部屋に招かれたオリヴィーが見てしまい、咄嗟に「そ、それは王家に伝わる『真実の本』なのよ!」と嘘を吐いた所素直過ぎるオリヴィーはすっかりと信じてしまい、僕とランバートの事を「そういう関係」だと認識し、そういう目で見るようになったというのが違和感の正体だった。
「もう僕とランバートの仲をそういうのではないと信じてくれるよね?」
「も、勿論です!その節は申し訳ございませんでした。よく考えてみたら違うと分かりそうなものを私ったら...」
「いいんだよ、オリヴィーは何も悪くない。悪いのは全てあの馬鹿なんだから」
「...ですが、あの絵はとても素晴らしい出来でした。内容は、何と言いますか、生々しくて目を覆いたくなる物でしたけれど、スチュアート様のお姿は、その、素敵でした♡」
あの薄っぺらい本の中の絵は大半が半裸の僕とランバートの絵だったのだけれど、それを素敵だと頬を染めるオリヴィー。
それはもしや...。
「それは僕を誘っているのかな?それとも煽っているの?」
「え?」
「あの本には半裸の僕とランバートが描かれていたよね?それを素敵だなんて、それは僕の半裸の姿が素敵だという事だよね?つまり、半裸の僕を素敵だと思ってくれたって事でしょ?」
「あ、は、な、え、キャァァ!」
「照れなくていいよ、オリヴィー。僕のそんな姿を想像してくれたって事は、そういう事も吝かではないって事だよね?」
「あ、や、違っ、違くないけど、ぁあぁぁ!」
「初夜まで待っていようと思っていたけど、一歩位大人の階段を上ってみてもいいって事かな?」
「その、それは、あの、その...」
「キス位は許してくれるかな?」
「.........はい」
あの本は許容しがたかったけれど、オリヴィーとの仲が一歩進展する結果に繋がったのだからまぁ許そうと思う。
本人には絶対に言わないけどね。