お嬢様、救出大作戦!の巻
アンティアとセオは、梟を先導させ、洞窟内を進むが、誰もいないようだ。
突き当たりの、ガランとした暗闇に、木箱が一つ…
コツコツ叩くと返事がある。アンティアが、ナイフを使って木箱をこじ開けると
「ありがとうございますぅ。」と、泣きつかれた。
どうやら、彼女は侍女らしく、お仕えしているお嬢様とはぐれたらしい。(はぐれるってなんだ?)と疑問符が、アンティアの頭に浮かぶ。
疑問を問いかけようとした矢先、セオが、緊迫した様子で伝える。
「お嬢、水かさが増してきてませんか?」
アンティアは、慌てて足元を確認する。
(もしかして、侍女は…始末する予定だったの?)
急いで、皆で洞窟の出口に向かうが、海水が膝まで上がってきている。
ベソをかく侍女を、叱咤激励しながらなんとか外に出た。
(それにしてもおかしい。路地裏では侍女しか見ていない。どういう事だ?)
※
アンティア達は、塩水の恐怖から逃れ、岩場近くの窪みで一息つきながら、侍女の話を聞いている。
「要約すると、お嬢と似た思考のお嬢様が、この世の中にはいる。っていう奇跡ですね。」
セオは、妙に納得したようすで、頷いている。
隣国の船が寄港している噂を聞いて、興味本位にお忍びで来てみたら、悪党に目をつけられて誘拐された。という事だそうだ。
(家紋入りの馬車で、護衛も付けてないって……少人数=お忍びじゃないわよ? まぁ、犯罪率も低いければ、警戒心も薄れるわよねぇ)
と思ったところで、アンティアは気付く。
「……そうすると、本物のお嬢様が危ないんじゃなくて?」
慌てて、皆で自称お忍びの宿場(といっても、貴族用のだったけど)に戻るが、やっぱり本物のお嬢様はいなくて、部屋は荒らされ……てはなくて、上品に連れ去られたようだ。
あんまり他人の前で術は使いたくないんだけど、人命が掛かってるから…とアンティアは、セオの顔色を伺う。
『後で、記憶消しといてね。』
『・・・』
セオは、怪訝そうな顔をするが、仕方なしに頷く。
「何か、お嬢様の持ち物借りれるかしら?できれば、櫛がいいんだけど。」
アンティアが、小首を傾げながら頼むと、侍女は、不思議そうな顔をしながら、隣室から櫛を持ってきてくれた。
なるべく、侍女の視界に入らないように、ポケットから犬の型紙を出した。
櫛から、お嬢様の髪の毛を拝借し、折紙の折り目に、その髪を入れ込む。
そして、息を吹き掛けると…
「ワン!」 犬が外に駆け出していく。
目を見開き、手は口元を覆って、明らかに驚いている侍女の目をセオが手で覆い、何かを呟くと、そのまま目を閉じて崩れる様にもたれ掛かってきた。
セオがゆっくりと、侍女を椅子に座らせる。
アンティアは、犬に意識を集中する。
どうやら、森の方へ向かっているようだ。
「あんたが回復魔法使えたらいいのに。」
「そっくりそのままお返しします。」
疲れた身体に鞭打って、犬を追いかけようとした時、急に後ろから声がした。
「私、簡単な回復ならできます!」
椅子に座らせていた侍女だ。
(回復持ちだったなんて!渡りに船?棚からぼたもち?とにかく、ラッキー!)
嬉しさを隠しきれないアンティアとセオは、侍女様に回復魔法をかけてもらう。
(素敵!身体が軽い!この世の果てまで駈けて行けそう!)
「腹ごなしに丁度いいわね。」
「女の子が、腹とかいいません!」
アンティアは、侍女に怒られた……