港町で、美味しいものを食べたい!の巻
磯の香りが鼻をくすぐる。もうすぐ港町に着くようだ。日もだいぶ傾き、海が見えれば沈んでいく夕日が見えただろう。
アンティアは、真っ暗になる前に宿を決めたいと、考えながら、馬の瀬に揺られていると、遠くからアンティアを、呼ぶ声が聞こえた。
「お嬢ぉー遅いですよー」
一本道の先の方で、腕をブンブン振ってるデカイ男が見える。
領地にいるはずのセオだった。(おいおい、仕事はどうした?)
※
~遡る事、数日前~
「聞いてないですよ!お嬢が見合いだなんて!」
セオは大声をあげる。
このラバンディータでは、他に比べて主従の関係が近い方だが、辺境伯令嬢の婚姻に、一騎士が口を挟むなんてあり得ない。
セオ自身も、十分に理解しているはずなのだが、どうにも、気持ちを整理できないようだ。
アンティアとセオとカイの三人は、子供の頃から一緒に野山を駆けずり回り、魔法や護身術、武道を競いあってきた仲だ。
だからなのか、セオはアンティアを妹の様に思っている……はずだ。
その、妹と思っているアンティアの一大事に、こんな辺境でのんびり帰りを待っていられるか!
ということらしい。
「途中の宿場町で護衛を待機させようとおもっていたんだが、セオ行くか?」
「行くに決まってるじゃないですか!」
ラバンディータ辺境伯の問いに、セオは頭が外れる勢いで頷く。
王都からラバンディータまでは、途中2ヶ所宿場町がある。港町か湖のほとりか、だ。
セオは港町で出迎える事にした。なぜって、『お嬢は単細胞だから』と考えたからだ。
セオが、港町の定宿で待っていると、アンティアのイブキが窓辺に止まった。脚輪からメモを取り出すと、帰る、と書かれてあった。
セオのエメラルドの瞳が優しく揺れる。
手紙を戻して、イブキを離す。気を付けて帰れよ。と声をかけて。
セオは、(さて、お嬢を迎えに行かないと)と独り言をいいつつ、いそいそと準備を始めた。
※
「カイ様と掛けたんですよ。何日で王都から逃げ出すか。そして、何処に寄り道するか。俺の勝ちですね。」
セオは、得意気にアンティアに、言ってくる。
(逃げ出すのを予想してたなんて……『社会勉強だよ?』は、どうした?)
セオは続ける。
「ローレルからの船が入港するらしいんで、珍しいナイフも出回ると思ったんですよ。なんで、俺は港町に掛けました。」
「義兄様は、何処に掛けたの?」
「湖ですよ。新種のラベンダーが出来たらしくて。ですが、お嬢は花よりナイフでしょ?いい加減、妹に…」
アンティアは、言い終わる前に、セオの頭を叩いてやった。失礼なヤツだ。
ヤイヤイ言いながら、セオが取ってくれてた宿屋に入る。
アンティアは、軽く湯あみをしてから、ラベンダー色のワンピースに着替えた。
アンティアは、何故か昔からラベンダー色が好きだ。
二人とも、お腹が良い具合に空いてきたので、匂いを頼りに食事処を探す。(やっぱり、魚介でしょ)
二人は、目当てのお店を見つけて席を確保する。
アンティアは、一応警戒しておこうと、人目を気にしつつ、ポケットから梟の型紙を取り出し、息を吹き掛ける。
手のひらサイズの梟は、窓辺へトコトコ歩いていき、外へ出た。
彼女が感覚を共有すると、どうやら屋根の上に乗っているようだ。
「お嬢、人前で術は使わない約束ですよ?」
すかさずセオが、周りに認識障害を掛けていたようだ。
アンティアが、「ごめん」と謝ると、頭をポンポンしてくれる。
思わずセオを見て、ニッコリ微笑む。
食事も終えて、そろそろ宿に戻ろうかと話していたときに、何か聞こえた気がした。
セオに聞いてみるがわからないとのこと。
アンティアが、梟に意識を集中してみると、どうやら、路地裏が騒がしいようだ。
見て見ぬふりも後味が悪いので、セオと二人で、通りがかった振りで様子を確認しようと路地裏に向かった。
すると、どこからどう見ても怪しい人物達が、路地裏には似つかわしくない女性を、木箱にしか見えない箱に押し込んでいる。
(木箱に入れるか?普通)
セオとアンティアは、顔を見合せ
『行くしかないよね?』
『行くしかないでしょ。』
とは言ったものの、二人で、どうやって助けようか思案しつつ後をつけていると、いつのまにやら岩場の洞窟にたどり着いていた。
(意外と隙が見つからなかった。ただの悪党じゃないのかしら?)
洞窟の入り口から目を凝らしてみるが、奥の様子はいまいちわからない。ただ、話し声らしきものだけ聞こえる。
話し声が、だんだん近づいてくる。悪党共が出てきた。さて、困った。
出入りの人数は合っているから、木箱を置いて出てきたのは推測できるけど、中に仲間がいないとは限らない。
アンティアは考える。梟も付いてきてるけど、洞窟に梟がいるか?怪しいよねぇ…洞窟にいても怪しまれない動物…コウモリ?コウモリってどんな形?
『ねぇ、ネズミに羽つけたらコウモリ?』
『見た目はそんな感じでしょうけど、ゲテモノになりませんか?』
(私の術は、基本折り紙なんです! コウモリなんて折ったことない)
アンティアが、うんうん悩んでるうちに、なんだか足元が濡れてきた。(波が高くなった…?)
『お嬢!潮が満ちてきてます!戻れなくなりますって!早くコウモリでもゲテモノでも…』
セオが、慌てる。
『あーっ!もういいや!出たとこ勝負で行きますよ!お嬢!』
セオが、暗闇に走り込んだ!
(おいおい、二人で行けるのか?私、お嬢様なんですけど!)と、心の中で叫びつつ、アンティアは慌てて、セオの後を追った。
いかがでしたでしょうか?
面白かった、つまらなかった。評価、いいね、☆等で応援していただければ、幸いです。
今日も、良い一日になりますように。