伸るか反るかの巻
初めまして。初瀬 琴音と申します。
徒然なるままに、書き連ねました。
楽しんで頂けたら幸いです。
ブックマークしていただけると嬉しいです。
不意に、後ろから蹴られ、アンティアは階下に転がり落ちる。
外観からは想像つかない程薄暗く、澱んだ空気の臭いがする。
明かり取りの窓のおかげで、周りがぼんやり見えてきた。拷問部屋なのか?絵でした見たことないけど。
あいつが、侍女が、階段を一段ずつゆっくりと降りてくる。
(気取りやがって……)
「お嬢様の安泰の為には、目立つ令嬢は邪魔なんだよっ」
なんとも、自分勝手な理由だ、全ての令嬢を排除するつもりなのか?無茶苦茶だ。
斬りかかってきた侍女の腕を掴み、身体を反転させ首筋に刃を当て引く。いつも、訓練している通り…
血しぶきが飛ぶ。私を見上げながら、歪んだ表情の侍女が崩れていく。瞳の中に私がうつる。
返り血を浴びた手を見て……
目の前に何かが飛び込んでくる。
とっさに屈みこみ、脚の筋を切り、倒れこんだところで、訓練通り首筋に刃を当て…
血しぶきが飛ぶ。手が赤く染まる。
髪を掴まれ、壁に顔面を打ち付けられる。
痛い!と思うのだけど身体はかってに動く。
とっさに屈み、相手の脚の甲にナイフを突き立てる。左手で新しいナイフを引き出す、と共に首筋を狙い切りつける。訓練通りに……
血しぶきが飛ぶ……
兎に角、地上に出ないと。
階段を掛け上り、負い被さってくる敵に無我夢中でナイフを突き立てる。
地上に出て、力が抜ける。こいつら何人いるんだ?
さすがに、死を意識した。
こうなったら、『伸るか反るか』だ。
相手とにらみ合いながら、ポケットバックから折紙を引出し、唇で破く。血がにじむ……
数枚に分かれたところで、『呪』をかける。見よう見まねだ。
『殲滅せよ』
とたん、千切れた紙が意思を持ったかのように、回りに向かって飛んでいった。
鋭いナイフの様な形状になったそれは、アンティアに敵意を持っている者共に、襲いかかる。そして、赤く染まっていく……
※
走る、走る、走る。
襲いかかってくる敵を確実に仕留めながら、アンティアは、赤く染まっていく。
本当に敵なのか?
私の敵なのか?
両手にナイフを握りしめ、フラフラと立ち上がり新たな敵を睨む。
心とは裏腹に身体が動く。
新しい獲物に躍りかかる。踊るように切り裂く。
無心で、血しぶきを纏う。涙なのか汗なのか、それとも血なのか……視界がぼやけてくる。
もう、わからない。何も感じない。
セオに会いたい。最後に会いたい。
アンティアは、見える者全てを切り裂いて、死屍累々の中央で真っ赤に染まり膝をつく。
※
セオが、雑木林の草木をかき分け、イブキの鳴き声と、細切れになった血染めの紙の跡を頼りに、アンティアを捜す。
「お嬢!お嬢!」
新緑の木々の隙間から差し込む一筋の白い光と対照的に、赤く染まったアンティアが、血だまりの中央に膝まづき天を仰いでいる。
ゆっくりとセオに振り向くアンティアの瞳に光がない。
セオは慌てて駆け寄り、自分の胸にかきい抱く。
「お嬢、もう大丈夫ですよ。すべて終わりました」
「セオ?」
と、琥珀色の瞳でセオを見上げたアンティアは、声にならない声をあげ泣いた。泣き続けた。いつまでも、いつまでも…
※
モモが、満身創痍の状態で港町の定宿に戻ってくると、重苦しい空気が、漂っていた。
そのまま、誰に言われるでもなくアンティアの眠るベッドの側に座る。
カイ、セオ、モモとで見守っているが、彼女はまだ、意識が戻らない。
初めての戦闘で、心が壊れたてしまったのか……魔力切れを起こしたのか……
「お嬢様は殺されてたかもしれないんですよ?生き残るためには、闘うしかないんです。迷ったら死んでしまいます。無意識に動けていたのが救いです。間違っていません!」
モモの叫びが、冷たい部屋にひびく。自分自身に、カイ、セオに、言い聞かせるかのように……
いかがでしたでしょうか?
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今日も、良い一日になりますように。