魔導師団長は物知りの巻
初めまして。初瀬 琴音と申します。
徒然なるままに、書き連ねました。
楽しんで頂けたら幸いです。
ブックマークしていただけると嬉しいです。
第2騎士団の詰所に向かうカイと別れて、アンティアは、反対側の廊下を進む。
顔馴染みの文官も増えて、立ち話も弾んでしまう。
知り合いに笑顔で手をふり、魔導師団の訓練所に向かっていると、魔導師団の団長、アビスに呼び止められた。
「聞きたい事があるんでしょ?」
と、団長室に招き入れられた。
様々な異国の文字が埋める本棚に、圧倒される。乱雑に執務机に置かれた書類の山が、忙しさを表してはいるが、なぜか落ち着きのよい空間を演出している。
年代物の調度品が、よい緩衝材になっているのだろうか。
アンティアは、アビスに勧められるまま、アンティーク調のソファーに腰掛け、話し始める。
「実は……」
「式の由来かぁ……僕も実際には数回しか見たことないんだけど、古いにしえの魔術らしくて扱える人がそもそも少ないんだよね。興味あるの?」
と、アビスは、真冬の月のない夜のような、漆黒の瞳を輝かせる。
アンティアは、魔術が苦手だし魔力も少ないから、もしかしたら式なら使えるんじゃないかと思って……
と、用意した答を言う。
「あははは 違うよ。式の方が魔力量が必要だと思うよ。だって、紙を物体化して命令も聞かせるんでしょ?ましてや、思い通りの形にしちゃうんだから、三倍は必要なんじゃない?」
彼は、身体を揺らしながら笑う。
師匠が言ってた『式神』の事だろう、と思いつつ、どんなものなのか?と尋ねてみる。
「僕が見たのは、ただの紙だったよ?それに言葉を掛けてたね、言霊っていうのかな?」
「それに、式はテイマーと似ているかもね。紙を使役するのも、動物を使役するのも似てると思わない?
複数の動物を使役するには、魔力量も必要だし……ねっ?似てるでしょ?」
と、漆黒の瞳を煌めかせる。
魔力量って、どうやって増やすんですかね?と、アンティアは聞いてみる。
「精神力が鍛えられると、魔力量も増えるよね。精神を鍛えるなら、体力をつけないと」
と言いながら、アビスは、アンティアのおでこに手をかざす。
「うーん。魔力量は少なくないと思うよ。何かストッパーがあるのかなぁ、君自身が拒んでるみたい。」
と、ちょっと残念そうに話す。
魔力量はあるから、魔術の練習をして魔力を常に流していれば、身体が魔力に慣れてストッパーが取れるかもよ?と、アドバイスをくれた。
(常に魔力を流すのかぁ……式でも飛ばしておくか?
それより、折紙を使わないで言霊で式が操れたら、かなり楽よねぇ)と、アンティアは、思った。
よし、練習あるのみだ!と、再び決意を新たにするのだった。
部屋を出ていくアンティアの後ろ姿にアビスが呟く。
『飛び抜けたテイマーって人間も使役できちゃうんだよ……』
※
早速アンティアは、魔導師の訓練所へ、魔力を常に流し続ける練習方法を聞きに行った。
回復か防御を、常に身体に纏うのが一般的らしいと聞いて、みんな、そんな事してるの?とアンティアは驚く。
「今は、武力抗争がないので魔力を消費してまで使いませんよ。昔は、常に纏っていたようですけど。平和になった証拠ですね」
と、教えてくれた魔導師が言う。
アンティアは、やり方を教えてもらいながら、一応得意分野であろう防御魔法を纏ってみる。
(わずかな量を絶え間なく……力加減が難しいが、私でもなんとか出来そうだ)
「後は、自然な表情で掛け続けられるといいですね」
と、笑われた。
鏡に、魔導師ローブを着ている、しかめっ面のアンティアが映っていた。
※
「で、どう?できてるかな?」
アンティアは、王城の食堂で食事をしているモモに、ソワソワしながら聞いている。
「貴族が庶民の利用する食堂で食事をしてるってどうなんですか?」
「大丈夫よ、だだの魔導師見習いだもん」と、アンティアは、ローブをヒラヒラさせる。
モモやセオに頼んで、いちいちタウンハウスに戻るのも面倒じゃない?と言い
「それに、美味しいじゃない。ここ。」
と、優雅に微笑んでいる。
モモは思う。
どんな格好をしていてもお嬢様は天下一品なんですよ。 食事をする仕草も優雅で上品だ。誰が見ても令嬢で、私の自慢のお嬢様だ。
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本日、最終投稿です。